unstoppable2 | ナノ

OT

「奏!もう行ける?」
「オッケー!準備完了!」


奏と私がこっちの世界に来てから1週間程経った。
これから2人でストバスコートに向かう所だ。
吹き付ける1月の風は冷たくて思わず身震いする。
そんな寒空の下、今頃大輝、テツくん、涼太、真ちゃんは揃って汗を流している所だろう。

私たちは何故か若返ってここに存在していた。
大学1年生だって、笑っちゃう。
もう1度大学生をやらなきゃいけないらしい。
それよりも驚いたのは大輝が高3になってた事。
なんだかちょっと大人びたななんて思ってたら2年も経ってたなんて。
つまり…大輝は2年もの間私の事を忘れずに居てくれたって事なんだけど。
それを知った時は人目も気にせず大輝に飛び付いたっけ。
黒い顔を赤くして照れる大輝は可愛かった。
それから私がこの世界に落とされたその日、服のポケットには見覚えのある免許証が入っていて、だけど見た事のない住所が書かれていた。
記された場所に行ってみれば、そこには苗字・遠山と書かれたシェアハウスが佇んでいた。
戸籍も問題なく存在しているという事にもビックリだ。
私たちは何の不自由もなくこの世界に居られるのだと、居ていいのだと心からホッとしたのはまだ記憶に新しい。

「あ!名前っち!!」
「うお!黄瀬コラッ!まだ終わってねーぞ!」
「青峰くん、一旦休憩にしましょう」
「ふんっ。まったく、騒がしいヤツらなのだよ」
それぞれ『らしい』会話をしながらぞろぞろとこっちにやって来た。
それがなんだか微笑ましくてつい頬が上がる。
「お疲れさん!はい、飲み物」
「名前っち!寒くないッスか?俺の膝の上空いてるッス」
「ぶーっ!!…黄瀬、てめえぶっ殺されてえのか?」
「えー、意味分かんねッス」
「お前諦めわりぃぞ!」
「青峰っちに言われたくないッス」
「ほらほら!喧嘩しない!まったくアンタたち何処行ってもする事一緒なんだから」
「喧嘩するほど仲がいいって言うしいいんじゃない?」
「奏さんの言う通りですね。僕もそう思います」
「お前たち、向こうでもそんな事をやっていたのか…くだらん」
「はい、真ちゃんも飲み物」
「…真ちゃんは止めろ」
「おい名前!その名前呼ぶんじゃねーよ胸糞わりぃ!俺にも飲みもん!」
「…おい青峰。今のは聞き捨てならないのだよ」
「あ?こっちは聞きたくもねえお前の目覚ましボイスで安眠妨害されたんだぞコラ」
「知るか!!なんだそれは」
「…あんたたちも結局こうなのか」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てるカラフルな男のコたち。
私と奏は笑いながらその光景を眺めていた。

皆が帰った後も私と大輝は2人コートに残り、ベンチに座って夜空を眺めていた。
「かーっ、さぶ」
「んー、さむ。あ!そうだ」
「あ?」
「はいコレ。ちょっと遅いクリスマスプレゼント」
大輝は一瞬目を見開いて私を凝視した後、黙ってそれを受け取る。
ガサガサと乱暴に包みを剥いで中身を取り出した。
「…」
「マフラー、持ってないでしょ?寒いかなと思って」
「…」
「あれ、いらなかった?」
「…さんきゅ。使う」
「へへ」
ちょっとだけ照れた素振りを見せて、早速首に巻き付ける大輝が可愛い。
なんて言ったらすぐ怒るから言わないけど。
マフラーに顔を埋めて、大輝は何故かそのまま黙ってしまった。
時間も遅いのでそろそろ帰ろうかと立ち上がると、ぎゅっと手を掴まれる。
大輝の手は凄くあったかい。
「?…どしたの?」
「もうちょい」
「ん?え、っわ!!」
ぐいと引かれて座らされたのは大輝の足の間。
後ろから大きな体にすっぽりと包み込まれてじんわりと熱が伝わって来る。
ホッと息を吐くと、お腹に回された手には力が込められ、すりすりと頬を摺り寄せられた。
「大輝?」
「んだよ」
「ごめん怒んないで、ちょう可愛い」
「るせーよ」
「あはは!ホントどしたの?なんか変ですよ?」
「口塞ぐぞコラ」
「思春期の男のコは難しいなぁ」
「ババアかおめーは」
「む」
「…はぁ。そうじゃねーだろ」
「?」
「…名前」
「ん?」
お腹に回っていた手が緩んで、その手が今度は私の両の手をそれぞれぎゅっと握り締めた。
何これ、恥ずかしい。
「…」
「…ん?」
さっきまで感じなかった掌の違和感に、シャラリと響いた金属音。
これって…
ドキドキと心臓が騒ぎ出す。
「大輝?」
「……っ」
「え?」
耳元でボソリと呟かれた言葉が聞き取れずに聞き返すと、手の中の物をぐっと押し付けられて力いっぱい抱き締められた。
ゆっくりと開いた私の掌には…
「うそ…これ、プレゼント?」
「…嘘ついてどーすんだバカ」
「ど、したの…これ…」
「買った。あっち居る時のバイト代…なんか知んねーけど持っててよ」
「バイト…あ、バスケの…」
「そ。いつ渡すかなーと思ってたけど、いい機会だし」
そう言って私の手から奪い取ったそれはチェーンに通されたリング。
シャラと音を立てて私の首に下げられた。
そしてもう一度、さっきよく聞き取れなかった言葉が耳元で囁かれる。
「それ…お前は俺のもんだっていう、シルシ」
「っバカ!!形なんかなくったって私は、っん!!」
振り向き様の私の言葉は大輝に飲み込まれた。
寒空の下重ねられた唇は酷く温かく、伝わる熱に融かされそう。
しっかりと私を抱きしめ直して更に深くなるキス。
いつまでも続くそれを、いつまでも飽きる事なく受け止めた。
そんな想定外の幸せに浸る、冬のある日。


「ずっと着けとけ、名前」
「ありがと、大好き」

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