「うーん………ぐえっ!!」
「っ!?」
背中痛い。
ベッドから落ちたかな。
そんな寝相悪くないはずなんだけど。
奏の手、どこ?
もう起きたのかな?
でも私もうちょっと寝たい。
昨日は凄く夢見悪かったし。
あんまりぐっすり寝た気がしないな。
妙にふわふわした心地の中もう一度睡魔に身を預けようとしたその時、すぐ近くで有り得ない声が響いた。
「…全く、一体なんなのだよ」
一気に意識が浮上する。
ふわふわしていた原因はどうやら運ばれているからだったらしい。
夢なのか何なのか状況が掴めないままゆっくりと重い瞼を持ち上げた。
「う…」
「…」
「…ん?」
「…」
「…」
「…」
「……っ真ちゃんっ!?!?」
「な!何故俺の名を知っているのだよっ!!」
意味が分からない。
何故か私は真ちゃんらしき(いや間違いなくコレは真ちゃんだ)に抱き上げられていた。
これは夢?
にしてはやけにリアル。
緑の髪に整った綺麗な顔、黒縁のメガネに長い睫…
「……何故俺の頬を抓るのだよ」
「…痛い?よね」
「当たり前だ!なんなのだよ!!」
バンッ!!!
突然ドアが開くような大きな音がして体を強張らせると同時に、聞こえて来た声に私の体は震え上がった。
「名前っ!!!」
「!?」
「緑間てめえ!!何してやがるっ」
「…なんだと?わざわざ連絡してやった上に、ゴール下で伸びていたコイツを運んでやっているというのに…その言い草はなんなのだよ」
「いいから離せコラ!!」
私はそのやり取りをただ茫然と眺めている事しか出来ない。
だって…
「来い!名前!!」
言葉と共にぐいっと腕を引かれて、緑の彼から引き摺り下ろすように離される。
そして私が辿り着いた先は…
「だっ、大輝っ!!!」
「っにやってんだよ、おめーは!!」
目の前に広がる、青。
大輝の腕の中だった。
潰されるんじゃないかと思う程に強く、ぎゅうぎゅうと抱き締められた。
その手は僅かに震えている。
ああ、これは夢?現実?
「大、輝?ほ、ほんとに?」
「ああ?お前俺の事忘れたのか!?」
「そんなわけないっ!だって!」
「だってじゃねーよ!」
強い語気とは裏腹に情けなく歪んでいく表情。
私はその顔をそっと手で包み込み、ペタペタと触れて確かめた。
鋭い目が気持ち良さそうにうっとりと細められる。
指先がふと唇に触れれば、腰と背に回された手にぐっと力が籠もった。
「…本、物?」
「名前!っんだよ!…分かんねーなら、分からせてやるよっ」
「え、っんむっ」
ぶつけるように重ねられた唇。
忘れるわけない。
忘れられるわけがないんだ。
もう二度と会えないと思ってた。
もう二度とこんな風に触れ合えないと思ってた。
その人が今、目の前に居る。
「名前っ!名前っ!!」
「はぁ…まったく。目も当てられないのだよ」
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