「い、いだだだだっ!!」
「いつまで寝てるのアンタは」
突然頬に痛みを感じて目覚めれば、奏が私の頬を引っ張って笑っていた。
時計を見ると時刻は12時。
二度寝にしては寝過ぎだ。
奏は随分前に起きてお昼を作ってくれていたらしく、キッチンからカレーのいい匂いがしてきた。
ぐぅ…
私のお腹からいい音が響いた。
「ぶっ!なんて素直な体なの!!」
「…褒め言葉として受けとっとく」
向かい合ってカレーを食べる。
奏の表情は幾分か明るくなった気がする。
そういう私も、昨日はいっぱい泣いたからかちょっとスッキリしてる。
目の前の大好きな親友に感謝だ。
それから数時間。
2人が今居るのはストバスコート。
今度はボールを持って対峙している。
素人の1on1。
無駄にボールが転がるから、それを追い掛けるだけで既に疲労困憊だ。
「よしっ!!…俺に勝てるのは俺だけ、なんつって」
「今勝つんだ!なんつってー?」
「今のはモノマネですか奏さん」
「え、似てたでしょ?」
「…あー、うん」
「何その間は!」
「なんて言ってる隙に、フォームレスシュート!!って、ああ!!」
「ぶっは!!」
ガン!!
ボードに当たって弾かれたボールは遠くに転がってしまった。
入るわけない、分かってたけどね。
「あー疲れたぁー!!」
「いい汗かいたねー」
地べたに座り込んで夕日を見つめる。
「今日もお泊りしちゃおっかなー」
「うむ、来たまえよ」
「ありがたき幸せ。…なんかさ、あんまよく覚えてないけど昨日はすっごい良く眠れてさ」
「そっか。良かった」
「凄くスッキリしてる、色々。…ありがとう、名前」
「な!何急に!…そんなの私も同じ。奏には感謝してるよ」
「ふふ。というわけで、今日も手繋いで仲良く寝んねしよっか」
「あはは!だね!寝んね寝んね!」
私たちは手を繋いで布団に入った。
昨日はソファで寝てしまったので、ベッドが異様なほど心地よく感じる。
ぎゅっと手に力を入れると同じように返された。
隣を見れば笑顔の奏。
今日も安心して眠れそうだ。
「奏が居てくれて良かった」
「ふふ。それ私もだよ」
「おやすみ、奏」
「うん。おやすみ、名前」
あ、この感じ。
またあの夢だ。
昨日夢で見た道をまた手を繋いで歩いている。
その道は昨日私たちが選んで進んだ薄暗い道。
『名前!この道、どこまで続いてるんだろうね?』
『うん…先が見えないから全然分かんないな』
『気のせいかもだけど、なんとなく道幅狭くなってない?』
『…うん、そういえば。足元が不安定なのは相変わらずだよね』
『だね。っていうか私たちどれくらい歩いた、の、……ねぇ、名前…』
話しながら道を振り返った奏の声音が変わった。
急に立ち止まった奏を振り返れば、同じように私も固まる事になる。
『来た道、消えてる』
『うゎ…一歩下がったら落ちる所だったよ』
『これって、振り返らずに先に進めって事かな?奏』
『そうかもね。でもこの先に何があるんだろ』
『さぁねー、分かんないけどもうちょっと行ってみますか!』
『名前ちゃんってば、頼もしい!』
『奏が居るからだよ』
『嬉しい事言ってくれるじゃん』
私たちは微笑み合い、繋がれた手をもう一度ぎゅっと握り締めて、大きく一歩を踏み出した。
その瞬間…
『!!奏っ!』
『う、うっそ!!名前!!』
踏み出した先に地面は無く、戻ろうとするも足場はガラガラと音を立てて崩れ始めた。
体がどんどん傾いて、地面の欠片と共に下へ下へ落ちていく。
怖い!!
『奏!!手、絶対放さないで!』
『分かってる!!』
私たちは両手をぎゅっと握り締め、目を瞑って恐怖に耐えた。
夢はここまで。
ああ、そろそろ目が覚めるのか。
せっかく昨日の続きだったのに。
もうちょっと楽しい夢が見たかった。
そんな事を思いながら、意識が浮上するのを待つ。
また、朝がやって来る。
『名前と一緒なら怖くない』
『私もだよ、奏』
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