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第20Q

「い、いだだだだっ!!」
「いつまで寝てるのアンタは」


突然頬に痛みを感じて目覚めれば、奏が私の頬を引っ張って笑っていた。
時計を見ると時刻は12時。
二度寝にしては寝過ぎだ。
奏は随分前に起きてお昼を作ってくれていたらしく、キッチンからカレーのいい匂いがしてきた。
ぐぅ…
私のお腹からいい音が響いた。
「ぶっ!なんて素直な体なの!!」
「…褒め言葉として受けとっとく」
向かい合ってカレーを食べる。
奏の表情は幾分か明るくなった気がする。
そういう私も、昨日はいっぱい泣いたからかちょっとスッキリしてる。
目の前の大好きな親友に感謝だ。

それから数時間。
2人が今居るのはストバスコート。
今度はボールを持って対峙している。
素人の1on1。
無駄にボールが転がるから、それを追い掛けるだけで既に疲労困憊だ。
「よしっ!!…俺に勝てるのは俺だけ、なんつって」
「今勝つんだ!なんつってー?」
「今のはモノマネですか奏さん」
「え、似てたでしょ?」
「…あー、うん」
「何その間は!」
「なんて言ってる隙に、フォームレスシュート!!って、ああ!!」
「ぶっは!!」
ガン!!
ボードに当たって弾かれたボールは遠くに転がってしまった。
入るわけない、分かってたけどね。
「あー疲れたぁー!!」
「いい汗かいたねー」
地べたに座り込んで夕日を見つめる。
「今日もお泊りしちゃおっかなー」
「うむ、来たまえよ」
「ありがたき幸せ。…なんかさ、あんまよく覚えてないけど昨日はすっごい良く眠れてさ」
「そっか。良かった」
「凄くスッキリしてる、色々。…ありがとう、名前」
「な!何急に!…そんなの私も同じ。奏には感謝してるよ」
「ふふ。というわけで、今日も手繋いで仲良く寝んねしよっか」
「あはは!だね!寝んね寝んね!」

私たちは手を繋いで布団に入った。
昨日はソファで寝てしまったので、ベッドが異様なほど心地よく感じる。
ぎゅっと手に力を入れると同じように返された。
隣を見れば笑顔の奏。
今日も安心して眠れそうだ。
「奏が居てくれて良かった」
「ふふ。それ私もだよ」
「おやすみ、奏」
「うん。おやすみ、名前」


あ、この感じ。
またあの夢だ。
昨日夢で見た道をまた手を繋いで歩いている。
その道は昨日私たちが選んで進んだ薄暗い道。
『名前!この道、どこまで続いてるんだろうね?』
『うん…先が見えないから全然分かんないな』
『気のせいかもだけど、なんとなく道幅狭くなってない?』
『…うん、そういえば。足元が不安定なのは相変わらずだよね』
『だね。っていうか私たちどれくらい歩いた、の、……ねぇ、名前…』
話しながら道を振り返った奏の声音が変わった。
急に立ち止まった奏を振り返れば、同じように私も固まる事になる。
『来た道、消えてる』
『うゎ…一歩下がったら落ちる所だったよ』
『これって、振り返らずに先に進めって事かな?奏』
『そうかもね。でもこの先に何があるんだろ』
『さぁねー、分かんないけどもうちょっと行ってみますか!』
『名前ちゃんってば、頼もしい!』
『奏が居るからだよ』
『嬉しい事言ってくれるじゃん』
私たちは微笑み合い、繋がれた手をもう一度ぎゅっと握り締めて、大きく一歩を踏み出した。
その瞬間…
『!!奏っ!』
『う、うっそ!!名前!!』
踏み出した先に地面は無く、戻ろうとするも足場はガラガラと音を立てて崩れ始めた。
体がどんどん傾いて、地面の欠片と共に下へ下へ落ちていく。
怖い!!
『奏!!手、絶対放さないで!』
『分かってる!!』
私たちは両手をぎゅっと握り締め、目を瞑って恐怖に耐えた。

夢はここまで。
ああ、そろそろ目が覚めるのか。
せっかく昨日の続きだったのに。
もうちょっと楽しい夢が見たかった。
そんな事を思いながら、意識が浮上するのを待つ。
また、朝がやって来る。


『名前と一緒なら怖くない』
『私もだよ、奏』

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