unstoppable2 | ナノ

第19Q

「だいたいねぇ、神様なんてもんが居たら今すぐここに出て来いって話なんだよ!」
「奏さーん、目怖い!」


飲み始めて数時間。
ペースが速いわけでも量が多いわけでもないけど、私たちはすぐに酔った。
特に奏。
こんな奏はレアだ。
酔いたかったのかもしれない。
少しでも気持ちを軽くしたかったのかもしれない。
さっきまで神様を罵倒していた奏が、急に眉を下げて溜息をついた。
「…名前」
「ん?」
「名前はさ、なんでそんな平気そうな顔してんの?」
「!!」
私と正面でしっかり目を合わせて、苦しそうな表情を向ける奏。
ぐちゃぐちゃの心の中を見透かされているみたいだ。
「…平気じゃ、ないよ」
「そんなの当たり前なんだから…吐き出して、いいんだよ?」
「っ奏!」
「無理に笑おうとし過ぎ!無理に忘れようとし過ぎ!」
「っ」
「あんた、自分がどんな顔してるか知ってる!?」
「か、奏っ」
「どんな風に隠そうとしたって隠し切れないんだよ!私には全部分かるんだから!」
「っう」
「泣きたければ枯れるまで泣けばいいんだよ!苦しければ叫べばいい!1人が辛いなら、こんなヘタレな私だけど頼ればいいんだよ!!」
「う、うぁあああん!!奏!!」
「名前のバカ!なんの為の親友だ!」
私は泣いた。
多分、今まで生きて来た中で一番。
大輝が居なくなってすぐ、バカみたいに泣いたりはしなかった。
その後奏と一緒に泣いた時も、枯れる程泣いたわけじゃない。
実感が足りなかったんだ。
大輝が居なくなってしまったっていう事実は日に日に私を苦しめた。
事ある毎に喪失感を感じて、その度に気持ちを押し殺して来た。
私、凄く変な顔してたのかな。
奏にはやっぱり全部見抜かれてたみたい。
「寂しいし苦しいし痛いし辛いっ」
「うん」
「どうしたらいいか分かんなくてっ」
「うん」
「1人で泣けなくて」
「うん、知ってるよ…バカなんだからっ」
「ふ、うっ」
奏に縋り付いて泣いた。
奏も一緒に泣いた。
泣き疲れて、いつの間にか2人で寝てしまったらしい。
私の記憶はここまで。


夢を見た。
今日の夢には私と奏が出て来た。
ふわふわと浮かぶ雲みたいな足元の道を歩いてる。
周りは真っ白で、白以外何も見当たらない。
道はずっと真っ直ぐ続いていた。
夢の中なのにやけに自分の意識がリアルで気持ち悪い。
『名前、ここどこ?』
『分かんない。どこまで歩けばいいんだろうね』
『うーん。急に穴開いて落ちたりしないよね?』
『奏!怖い事言わないで!!』
『だって足場が凄い不安定で落ち着かない!』
『手、放さないでね』
『ん』
ぎゅっと奏の手を握り締めて道を進んだ。
手を繋いだ感覚も凄くリアル。
そう感じるのは現実の私たちも手を繋いで寝てるからって事なのかな?
どれくらい歩いたか思い出せないくらい歩いた。
2人ともそろそろ体力も限界だ。
ふと項垂れていた首を持ち上げると、ついさっきまで1本だった道が2手に分かれていた。
右の道の先には扉。
見覚えのあるあれは間違いなく私の家の玄関のドアだ。
左の道の先には扉は無く随分見晴らしも悪い。
だけど道はずっと続いてるみたいだ。
『名前…』
『うん?』
『私、まだ歩ける』
『ふふ。私もそう思ってたとこ』
『あれって名前んちのドアでしょ?』
『うん。でも進むのは…こっち、かな』
『さすが!考えてる事一緒』
『つまらないいつもの家に帰るより、もうちょっと冒険してみたいよね』
『あはは!それ言えてる!』
私たちは大きく1歩踏み出した。


「…ん、あれ…」
頭が痛い。
ぼんやりとする意識の中うっすらと目を開けると、私は奏としっかり手を繋いでソファに凭れていた。
奏は隣でまだすやすやと寝ている。
その顔は穏やかだ。
ああ、まだ眠い。
もう少しだけ…寝てもいいよね。


「うーん、名前」
「おやすみ、奏」

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