unstoppable2 | ナノ

第18Q

「名前ちゃん、おはよう」
「おはようございます」


「名前ちゃん、体調は大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です。ご心配お掛けしました」
「何か困った事があれば言って」
「ありがとうございます」
いつもと変わらない笑顔で夏村さんが声を掛けて来た。
私も奏も2日間仮病で仕事を休んだ。
社会人として有るまじき…なんて思われるかもしれないけど、私たちにとっては仕事どころではない位大きな問題だったんだ。
それからは当たり前の様に『日常』が始まった。
大輝が現れる前の『日常』が。
大輝が居なくなって1週間程経過してから気付いた、というか驚いた事がある。
夏村さんが大輝の事を何も覚えていなかった事。
『そういえば従兄弟はもう帰った?』と聞かれたのだ。
私が夏村さんの家でお世話になった事も、大輝ではない別の『彼氏』という存在が原因だったのだと言う。
『もう喧嘩はしてない?』なんて言われて苦笑いするしかなかった。
勿論そんな人は居ないんだけど。
それから大輝とテツくんがバイトでお世話になっていたバスケのお店にも行った。
それとなく店長さんに聞いてみたけど、そんなヤツ知らないねと言われた。
『キミはこの前…あれ、でもなんで知り合ったんだっけ?』と言っていたので、やっぱり大輝とテツくんの事だけを忘れているみたいだ。
この世界から彼らの存在自体が消えてしまったんだ。

休日。
大輝が消えて2週間経とうとしていた。
私は1人、ストバスコートに来ている。
ここで一緒にバスケをした事がもう大分前の事の様に感じる。
だけど私の中の彼の色だけは少しも色褪せなかった。
コートの中央に立って目を瞑れば、大輝のニッと笑った顔が浮かんで『へったくそ』なんて悪態が聞こえてくるようだ。
大輝は今どうしているだろう?
無事に帰れたんだろうか?
元の世界に戻ったら私の事を忘れるのだろうか?
私には痛いくらい記憶が残っているというのに。
ダンッ
「!!」
突然後ろでボールを突く音が響く。
目を見開き、勢いよく振り向いた先には…
「名前ごめん…期待させちゃった?」
「奏…」
痛々しい笑顔を浮かべる奏が立っていた。
彼女はしっかりしていて凄く頼り甲斐があって強くて優しくて、こんな私といつも一緒に居てくれる自慢の親友だ。
その奏が今までここまで弱った事があっただろうか。
それくらい憔悴していた。
理由なんて明白。
それは親友の私にも埋める事の出来ない大きな存在の喪失。
奏本人も凄く驚いただろう。
こんなにも依存していたって事に。
…私も、同じ気持ち。
「奏!今日飲まない?」
「いいね、そうしよ!…泊まってもいい?」
「勿論!」
私たちは手を繋いで家までの道を歩いた。


「よし!沢山飲んで笑って泣いて泥の様に眠ろう!」
「奏、怖いから程々にね」

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