「なんで…居ないの…」
『名前、会いてー…』
夢は現実となった。
朝起きると隣に大輝は居なかった。
本当は目を開ける前から分かってた。
だって、いつも苦しい程に私を抱き締める温もりを感じなかったのだから。
何故か涙は出なかった。
ただボーっとする事しか出来ず、結局昨日大輝に零した通り仕事は休みにした。
「痛い…筋肉痛、ホントに来たし…」
『それ年なんじゃね?』
「はは…ホントだ、そうかもね」
私の大好きな声はもう記憶の中でしか響かない。
妙に冷静な自分が滑稽だ。
どうしてこんなに早く帰ってしまったんだろうと考えた。
涼太は体が透けてから5日で消えてしまった。
大輝の体が透けたのを見てからまだ2日。
もしかしたら私が見た時以前に既に、気付かない所で現象は始まっていたのかもしれない。
昨日が最後の夜になってしまった。
自分の体をぎゅっと抱き締めれば、まだ僅かに大輝の匂いがした。
ジワリと視界が滲んだけど、気付かないふりをした。
朝っぱらから食事も摂らずにふらふらと歩いて目指したのは奏の家。
携帯も持たずに家を出た。
電話じゃなくて会わなきゃと思った。
きっとテツくんも帰ってしまった。
夢には大輝とテツくんが出て来たから。
家から少し歩いた所で遠くから見慣れた姿を見つける。
「奏っ!!!」
「っ!名前!!」
人目も憚らず抱き合って泣いた。
1人じゃ泣けなかったのに…奏の顔を見た瞬間に涙腺は崩壊した。
家に奏を連れて帰った。
何をするでもなくずっと一緒に居た。
今夜はお互い1人じゃ眠れそうにない。
「奏…夢じゃなかったよね」
「うん、夢なんかじゃない」
「幸せだったよね」
「うん、すっごく幸せだった」
「奏…一緒に寝よっか」
「うん」
「おやすみ、奏」
「おやすみ、名前」
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