「名前…辛気くせー顔すんな」
「うん…分かってる」
奏とテツくんと別れてから私たちはトボトボと街を歩いていた。
凄くいい天気なのに気分は全然明るくなれない。
昨日の夜恐らく、いやほぼ間違いなく涼太は元の世界に帰った。
涼太の体が透けて見えたのは試合観戦に行った日。
消えてしまったのは昨日…その間、5日。
多分きっと、大輝もテツくんも帰ってしまう。
もし涼太の時と同じ計算ならばあと2日以内にお別れがやってくる。
『辛気くせー顔すんな』
そんな事言われてもどんなに頑張ったって顔が歪んでしまうんだ。
奏はなんとなくだけど覚悟を決めているみたい。
さっき別れ際に見た笑顔は、残された時間を楽しまなきゃって顔してた。
「名前」
「ん?」
「俺が前言った事忘れてねー?」
「…忘れるわけない」
「なら、分かってんだろ?」
「うん」
そんな事言ってる大輝も、いつも鋭い目がちょっとだけ辛そうに歪められてる。
大輝の言葉、忘れるはずない。
『もしお前に触れる時間が限られてるならよ…1秒だって勿体ねーだろ』
分かってる。
1秒だって無駄にしちゃいけない。
目を合わせると、大輝はニッと口端を上げて私の大好きな笑顔を見せた。
「名前、バスケすっか」
「え!私が!?」
「おー。パスとかシュートぐらい出来んだろ」
「お、お手柔らかに…」
「ぶは!んだよその顔は!うし、俺が直々に教えてやる」
「筋肉痛にならない程度にお願いしまぁす」
「そりゃお前次第だな」
「2、3日後に痛くなるとか嫌だ」
「それ年なんじゃね?」
「うるさい!!」
こんなやり取りさえ愛おしい。
私たちは日が暮れるまでバスケをした。
こんなに運動したの何年ぶりだろう。
大輝は小さな頃からこんな風にバスケに触れて来たんだな。
どんな場所からもどんな格好でもシュートが決まって、なんだか魔法でも見ているみたいだ。
そんな風にコート内を走り回りながら楽しそうに笑う大輝の顔を、姿を、しっかりと目に焼き付けた。
夜。
寝室に居るのは私と大輝の2人だけ。
昨日まで一緒に寝ていた黄色の彼は居ない。
大輝は何も言わずにシングルベッドを元に戻して寝転んだ。
「名前」
「ん?」
「早く」
「もう寝るの?」
「いーから早く」
「何ですか、もう」
不貞腐れたような顔をした大輝はベッドサイドに突っ立ったままの私の手を引いた。
そのままベッドに寝転べば、『お前はこっち』と言って私を持ち上げて壁側に。
大輝がこっちに来てからの私の定位置だ。
固い壁と大きな大輝とに挟まれて圧迫感を感じるけど、それさえも心地いいなんてどれだけ私はコイツの事が好きなんだろう。
視線を上げると鋭い眼光とかち合う。
こつんとおデコ同士がぶつかる。
ゆっくりと目を閉じて…
どちらからともなく唇が重なった。
重なり合う唇は角度を変えてどんどん深くなる。
大輝の肩に置いた手にぎゅっと力を入れれば、私を抱き締める大輝の手もその力を増した。
長い長いキスの終わり、ちゅっという音を立てて唇が離れる。
「は、っはぁ、苦しっ」
「バァカ、体力無さすぎなんだろ」
「それ、関係ないっ」
「あっそ。んじゃ、もっかい」
「は、んむ!!」
再び塞がれる唇。
大輝の思いが言葉なんかよりもずっとリアルに直接伝わってくるような、熱くて強くて苦しいキス。
それは大輝が満足するまでずっとずっと続いた。
「ほら、寝んぞ名前」
「…うん」
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