「ぶぅ…」
「んだよ黄瀬、キモイぞ」
日曜日。
朝からまたコレだ。
1日で熱が下がって元気になった涼太はふくれっ面、大輝は相変わらず涼太に当たりが厳しい。
なんで涼太が膨れているのかと言えば、『おくすり飲めちゃうネ』が原因だ。
「青峰っち、いくらなんでもこれはないッス」
「あ?お前がふざけた事ほざくからだろ」
「何スかそれ…」
「はぁ?てめえ覚えてねーのかよ、ったく」
「…口移しなんて、冗談なのに」
「ああ?なんか言ったか?」
「なんでもねーッスよ!!」
「ほらほら、喧嘩してないで!今日はプロバスケの観戦に行くんでしょ?」
「おー、そうだった!早く準備しろよ黄瀬」
「分かってるッス!!青峰っちこそ遅いと置いてくッスよ!」
「んだとコラ」
なんて、言ってるそばから言い合いになる2人。
きっとなんだかんだで仲はいいと思うんだけど、毎日これじゃ考え物だ。
そんな2人に半分呆れながらも準備に取り掛かった。
今日は奏とテツくんも誘って5人でプロバスケの試合を見に行くのだ。
涼太がこっちに来てテツくんと顔を合わせるのは初めてだ。
勿論奏も。
会場に着くと、テツくんと奏は既に着いていてこっちに向かって手を振っていた。
「黒子っち!!」
「黄瀬くん、お久しぶりです」
「黒子っちもだったなんてびっくりッスよ」
「僕も聞いた時は驚きました」
「あれ、隣のお姉さんは?」
「あ、ええと…この方は…」
「テツの女だよな!」
「あ、青峰くん!!」
「そうなんスか!?黒子っち!!」
「あの…は、はい」
「どうも!遠山奏でーす!いやーイケメンだねしかし」
「黄瀬涼太ッス!!今日はよろしくッス」
「…よろしくしなくていいです」
「ん?なんか言ったッスか?」
「…いえ」
「うわ、イケメン眩しい!!テツ助けて」
「え?え?」
3人の妙なやり取りは置いといて隣を見ると、大輝の目は既に会場に向けられていた。
目が合えば無言でグイと手を引かれて、早く行くぞとばかりに足が進む。
やっぱりバスケが大好きなんだなと再確認する事が出来て凄く嬉しい。
中に入ると、試合が決勝とあってほぼ満員だった。
既に試合は開始されている。
席に着けば身を乗り出すようにして見入る大輝。
隣に並ぶテツくんも涼太も同じだ。
3人のワクワクしたような表情を見る限り、こっちの世界のバスケも捨てたもんじゃないらしい。
暫く食い入るように試合を見つめて、ついに残り時間もあと僅か。
1点2点を追う試合展開に3人も興奮しているようだ。
その時ふと、涼太の眩しい黄色い髪が視界に入る。
会場のライトに当たってキラキラ綺麗だななんて思っていると、ふ…と髪が透けた。
光の加減だと、目を擦ってもう一度見れば…今度は頭全体が透けている。
さっきまで重なっていて見えなかった隣にいるテツくんの頭が、ぼんやりと透けて見えたのだ。
妙な胸騒ぎを感じて大輝の腕を掴むと、試合に見入っていた大輝が私を見た。
「どうした?…気分わりーのか?」
「え、あ、なんでもない」
「?なんかあったら言えよ」
「うん…」
それからずっと気になって涼太を見ていたけど、体の一部が透ける様な事は無かった。
嫌な予感しか感じなくて、どうか私の見間違いであってと願うばかりだ。
観戦を終えて5人で夕飯を食べた帰り道、大輝が突然私の腕を掴んだ。
他の3人は歩きながら談笑している。
「お前、やっぱ変だぞ?」
「え?」
大輝は私の少しの変化を見抜いていたらしい。
鋭いけれど心配をしてくれている目を向ける。
「…んだよ、俺じゃ頼りになんねーってか」
「!!」
頼りにしてないとかじゃなかった。
誰かに話す事でそれが現実になってしまうのが怖かったんだと思う。
もしあれが涼太が消えてしまう前兆だとしたら…
私は3人に気付かれない様に、さっきの会場での涼太の事を大輝に話した。
「…」
「…」
「…あんま、気にすんな」
「気にすんなって…」
「それが確かかも分かんねーんだし、考えてたってしょうがねーだろ」
「…うん」
「…」
「…」
「……俺が消える時は、意地でもぜってーお前の事引っ掴んでってやる」
「!!」
『…お前も、連れて、戻りて―な…』
いつかの大輝の言葉と重なって、胸が苦しくなった。
「あー!青峰っち!2人きりでずるいッス!!」
「ああ?名前は俺のだ」
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