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第9Q

「奏、どうしよう」
「大丈夫、きっとすぐ帰って来るよ」


夕方になっても戻らない大輝にさすがに私も焦り始める。
奏にも電話してみたけど、やっぱり2人の所には行っていないみたい。
テツくんがストバスコートとバイト先も見に行ってくれたけど、見当たらなかったらしい。
そのまま時間は過ぎ、時刻は夜9時になっていた。
待っている時間は異様に長く感じるとはよく言ったものだ。
気が遠くなる程待った気がする。
ガチャ
玄関の開く小さめの音を聞いて、私は駆け出していた。
「大輝!!」
「…おー」
「…お、おかえりっ」
「……ただいま」
予想通り、明らかに不機嫌な顔をしている。
だけどそれは私だって同じだ。
涼太に暴力振るった上に何も言わずに飛び出して、こんなに心配掛けて!!
だけど私は何も言えずにいた。
怒りたいけど帰って来てくれた事が嬉しくて、色々聞きたいけどとりあえずホッとして…
なんだかよく分からないごちゃごちゃとした感情に振り回されて、気が付けば目にはジワリと涙が滲んでいた。
「…ほれ」
「え」
唐突に大輝が差し出して来たのは買い物袋。
隣町のドラッグストアの袋だ。
首を傾げながら受け取って袋の中を確認した私は、ポカンとして目がテン状態だ。
『おくすり飲めちゃうネ いちご味』
『薬がラクに飲めるゼリー』
「…」
「…」
「…」
「…んだよ」
「え、…え?」
「ああ?黄瀬が薬が飲めねえだ口移しだクッソふざけた事言うから買って来たんだろーが!!」
「ええ!?…ぶっ、えーっ」
「なに笑ってんだコラ」
「や、ヤキモチ…」
「ああ!?」
「ふふ、ちょっと!大輝!」
「…てめえ、なんだよその顔は」
「だって!か、可愛い、あはは」
「かっ!!黄瀬と一緒にすんじゃねーよ!!」
「…朝、部屋の前で聞いてたの?」
「!?は!?通り掛かっただけだっつの」
「ふふ、もう…大輝は可愛いよ!涼太よりずっと!」
「な!別に可愛いとか言われたって全然嬉しくねー!!」
「じゃぁ…大好きだよ!!」
「!?」
「ほら、早く上がって。ご飯にしよ」
「…」
緩み切った顔を隠すように大輝に背を向けて歩き出せば、大輝の舌打ちが聞こえて更にニヤける。
結局大輝は私と涼太のやり取りにヤキモチをやいて飛び出して、薬の口移しをさせない為に1人試行錯誤してあんなものを買って来てくれたって事でしょ?
もう…突っ走り過ぎで単純おバカ過ぎで、可愛過ぎるでしょ。
リビングに入った所で振り向こうとすると、後ろから大きな体が圧し掛かって来た。
甘える様に頬に顔を摺り寄せて、私のお腹に手を回して力を込める。
「お前、なんかすげームカつく」
「ふふ」
「ムカつく」
「私は大好きだけど?」
「っ、くそムカつく」
「超大好きですけど?」
「…許さねー」
「わ!!大輝っ、ん」
強引に体の向きを変えられて、ぶつけるように唇が重なった。
これでもかと私をぎゅうぎゅうと抱き締める大輝が愛しくて、自分からも求めた。
熱に魘される涼太にちょっとだけ罪悪感を感じながらも、大輝の全てを受け止める。
こないだはお預けをくらった大輝。
大輝が心底満足するまで延々と鳴かされ続けたのは言うまでもない。


「私、何も悪い事してないのにっ」
「あ?まだ足りねーのか?」

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