「やっべー、ムラムラしてきた」
「は!?」
週も後半木曜の夜、すやすやと眠る涼太の反対側で不穏な声が漏れ聞こえた。
ギギギと音がするような動きで首を動かし目を合わせれば、悪びれた様子もなく真顔でもう一度…
「だから、ムラムラしてきた」
「いや、そんな真顔で言われても!」
「はぁ?黄瀬が来てからしてねーじゃんか」
「ちょ!露骨!!てかシーッ!!」
「んだよ、ケチケチすんなって」
「ひゃ!ちょっと!」
「…んー、うーん」
「「!!」」
「…」
「無理だってば(ひそ」
「ああ?じゃあこれからずっと我慢しろってのかよ(ひそ」
「そ、それは仕方ないっていうか…(ひそ」
「無理、ちょっとこっち来い」
「え、へぶっ!!」
凄い力で引き寄せられて顔が胸にぶつかって変な声が漏れる。
そんな事お構いなしにそのまま抱き起されて、抱えられるようにして寝室を出た。
連れて来られたのはリビング。
ソファになだれ込むように押し倒されてそのまま唇を塞がれる。
全く余裕の無い、息を荒げたキスが次々と降って来る。
「ん!だっ大輝!」
「っるせ!ん、う」
唇を合わせながら大輝の手は私の体を這い回る。
パジャマのボタンを外そうとする手を押さえて遮ると、目の前にある眉間に皺が寄った。
「ん、邪魔」
「んぅ!」
パジャマの裾からするりと手が滑り込んで来て声を上げれば、今度は上機嫌に目が細められた。
そしてやっと唇が離されたと思ったら首筋、耳の下辺りにチリッとした痛み。
ペロリと舐められて体が震えた。
その時、
「んー?名前っち?青峰っちー?どうかしたんスかぁ?」
「「!?」」
救世主!いや、この場合…
「てめえ、黄瀬」
「あ!青峰っちー!こんな夜中に何してんスかぁ」
「りょ、涼太…」
「あれ、名前っちまで?」
「黄瀬、てめえマジでシメる」
「ええ!?なんなんスか!!」
「ね、寝よう!ね!もう寝よう!」
「名前…お前も後で覚えとけよ」
「…」
そのままトイレに向かった大輝を、全力で見なかった事にしたい。
翌日。
物凄く不機嫌な大輝が涼太を連れて(いや、引き摺って)家を出て行った。
よく分かんないけど頑張れ涼太。
今日は金曜なので奏と飲む約束をしていた。
仕事を終えて急いで飲み屋に着くと、既に席で待つ奏を発見。
手を挙げて私を見る奏の目は言わずもがなニヤニヤしている。
「よっ!お疲れ!両手にイケメン!!」
「完全に楽しんでるよね〜」
「これが笑わずに居られるかぶはは!」
「真面目に頼みますよ奏様」
久しぶりに顔を合わせたっていうのにコレだ。
とりあえず乾杯をして飲み始める。
「で?どうなのよ?問題ない?」
「…ないと思う?」
「まあ、あるだろうね」
「んー」
「せっかく青峰っちとラブラブになった所に落ちて来たわけだし?」
「!そ、そういう意味じゃ…いや、まあ、うん」
「青峰っちが大丈夫?ってとこだね」
「さすが奏様です」
昨日の今日で、核心を突く奏はさすがだ。
別に涼太が邪魔だとかそういう事じゃないんだけど、あの万年発情期が爆発するのが怖い。
ていうか既に昨日暴走したし。
それよりも、だ。
今のこれはどういう状況なのかっていう事が重要だ。
あれ以来妙な夢は見ていない。
あの夢に関係があるなら、次に何が起こるのかが分かりそうなのに。
まあ夢なんだから見たいと思う時に見れるわけもないのだけど。
モヤモヤとした思いを抱えながら、奏と語り合う金曜の夜。
「しかし愛されてんね〜、こ・こ!」
「!?」
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