「名前、その後変わりは無い?」
「うん、いつも通り。なーんにも変わらないよ」
今日は土曜日。
私は親友の奏と電話をしている最中だ。
突然私と彼女の元に青峰大輝と黒子テツヤがやって来てから、約3週間が経っていた。
ここ1週間奏の仕事が忙しく、こうやって電話でのやり取りしか出来ていない。
今も彼女は職場から電話を掛けて来てくれてる。
『青峰っちの様子は?』
「相変わらずだよ。生意気、しつこい、うざい」
『うわぁ…いやいや、そんな事言って大好きなくせに』
「か、奏だってテツくんの事大大大好きでしょうが!」
『うん、愛してますけど?』
「…聞いた私がバカだった」
『あっはは!それより…消えそうになったりとか、何か妙な事とか無い?大丈夫?』
「今のところ無いよ。奏は?」
『こっちも平気。考えたくないけど、やっぱ考えちゃうよね…突然居なくなったらどうしようって』
「…そうだね…怖い、な」
『私も同じ。もう3週間経ったけど、3週間って長いのかな、短いのかな?』
「分からない…」
『嫌だけど、いつかの為に覚悟は固めておかないと、だよね』
「そう、だね…」
『久しぶりに電話したのにこんな話でごめん』
「いいよ、私も同じ事考えてたから」
そう。
私たちは少なからず不安を胸に抱えて過ごしてる。
それはいつ消えるとも分からない彼らの存在。
あまりに依存してしまった私たちは、突然彼らを失う事を恐れている。
彼らもきっと、口には出さないけど不安なはずだ。
「おい!名前ー!」
『あ、青峰っち呼んでない?じゃ、そろそろ切るね』
「平気なのに…」
『名前はもっと青峰っちに優しくしてあげなよ〜』
「十分優しいと思うけど?」
『ま、あんたたちはそんな感じが合ってる気もするけど』
「褒め言葉として受け取っとくよ」
『あはは!じゃあ、またね』
「うん。電話ありがと、頑張ってね」
電話を切るのと同時に背中に大きな子供が圧し掛かって来た。
すっごい重い。
「何?」
「あ?なんか理由がねーといけねーのかよ」
「あ…甘えてんの?」
「はぁ?ちげーし!暇ならどっか行こうぜ」
「んー。明日も休みだし…出掛けよっか」
「よっしゃ、まずストバスな!」
「やっぱそれか」
なんて呆れた様に言いながら内心とても嬉しいと思ってる。
楽しそうにバスケをする大輝を見るのは好きだ。
強い相手が居なくても、相手が小さい子供でも、笑いながらバスケをする。
こっちに来た事でそうなってくれたのだとしたらもっと嬉しい。
ストバスコートで暫く動き回っていた大輝が突然ビックリ発言をかました。
「そうだ名前。俺バイトすっから」
「ふーん、バイト。って、ええっ!?」
「もう決めた。テツと一緒にやる事になってっからよ」
「ちょ、ちょっと!テツくんも!?何処で!何の!?」
「…落ち着けよ」
「これが落ち着いて居られるか!戸籍も何も無いのに雇ってくれるとこなんか無いでしょ!?」
「あったから言ってんだろ」
「大丈夫!?なんか怪しいやつじゃないよね!?」
「ちゃんとした店だっつの。バスケの店だし」
「バスケ…」
「そ。こないだテツとストバスしてたら意気投合したヤツが居てよ。そいつが店経営しててバイト探してるっつーから」
「履歴書とかどうしたの!?」
「ん?バスケするヤツに悪いヤツはいねーとか言って一発オッケーだぜ」
「なにそれ怪しい」
「なんだよ。信じらんねーならこれから行ってみっか?」
「うん、行く」
大輝がバイトするという店に着いた。
普通に綺麗で大きなショップだ。
「お、居た居た。おい!店長!!」
「ん?おお!大輝!」
遠くに居た背の高い男の人が手を挙げてこちらに向かって来る。
「ほらな?」
「うっそ」
「よ!なんだよ、今日は女連れか?」
「まーな!コイツが信じらんねーっつうから連れて来た。な、名前」
「こ、こんにちは」
「こんちは!色々大変みたいだけど、大輝にはしっかり働いて貰うから安心しな!何も追及もしねえ!バスケヤロウに悪いヤツなんかいねえからなっ」
「…はあ」
色々大変?
チラリと大輝を見ると不自然な程に顔を逸らしている。
…何かあるな。
「わりぃ。お前が職無し家無し女って事になってる」
「はぁぁあああああッ!?!?!?」
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