キミのトナリ | ナノ

開封と開放

ずっと未読のままだった跡部さんからのメール。
あの時の辛辣な言葉が甦るけど、きっとメールの内容は忍足さんと一緒だ、と信じたい。
忍足さんからのメールも全て私の事を心配してのメールだった。
『あんな事言うたけど跡部も心配しとんねん』なんていう忍足さんらしいフォローも忘れずに。
…量が半端なかったけれど。
一度開いてしまえば既読…もう目につく事も無い。
『苗字が何処で何していようが俺には関係ねえだろうが!』
そうすれば携帯を見る度に思い出す事もなくなるはず。
そんな風に考えたらここまで見ずに引き摺って来たのが馬鹿みたいに、あっさりと開く事が出来た。
そして…


20**/**/** 23:44
From:跡部さん
件名なし
----------------------------
何処に居る?何かあったのか?心配している。お前が隣に居ないと、落ち着かない。すぐ傍に置いておきたい。本心だ。早く帰って来い。


「!こ、これ…何かの、悪戯?」
そんなわけない。
だってこれは確かに跡部さんからのメールで。
自分の想像と全く違った内容に驚き、そして安堵した。
『どうでもいい』と思われていないと分かっただけでも今の私には十分過ぎる。
なのに『傍に置いておきたい』なんて、告白紛いな言葉。
ぶんぶんと頭を振った。
私は自分に自信もないし、跡部さんを取り巻く沢山の才色兼備な女性たちに到底適いはしない。
だけど伝えたいって思った。
自分の気持ちを。
決意したと同時、私は慌ててソファから立ち上がり走り出し…
ビタンッ!!
たのは自分の気持ちだけで、本体はテーブルの脚に自分の足を引っ掛けて盛大に転んだ。
こんな時に要らない冗談だ。
打ち付けた両腕と膝のヒリヒリする痛みも大した障害にはならず、私は携帯をしっかり掴んで今度こそ駆け出した。

ガチャン
開錠の音が二重に聞こえた?
そんな気がしつつドアを押し開ければ、物凄い勢いで隣のドアも開いた。
驚いてそちらを見ると血相を変えた跡部さんが部屋から飛び出して来た。
靴も履かずに。
「ッ苗字!!」
「え!え!?」
そして突然両肩を掴まれて詰め寄られ、わけが分からない私は呆然としていた。
そんな私を他所に跡部さんは捲し立てる様に続ける。
「何があった!怪我は!」
「え!あ、跡部さん!?」
「さっき凄い物音がお前の部屋の方から聞こえた!何かあったんじゃねえのか!」
「!え、いや、あの…」
「なんだ!早く言え!」
物凄く焦った顔で問い詰めて来る跡部さんから、私の事を心配してくれているのだというのが伝わる。
それが私と同じ『好意』という形でなくても、私は嬉しかった。
伝えたい。
「苗字?」
「跡部さん」
「どうした!何処か痛むのか?」
「…」
「お、い…!」
黙る私に更に焦る様にして至近距離で見つめて来る跡部さんに、私はそっと身を寄せた。
抱き付くなんて事は出来ない、精一杯の行動だった。
跡部さんの香りが鼻を掠めてドキドキと心臓が高鳴る。
戸惑う跡部さんに私はとうとう告げた。

「跡部さんが好きです」

prev / next

[ back to top ]

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -