キミのトナリ | ナノ

痕と痕

休日の午後を久しぶりに会った旧友と過ごした私は帰路に着いていた。
時計を見ればまだ帰るには少し早い時間。
なんとなくまだ帰る気にはなれなくて近くにあったカフェに入った。
席に着いて大きく息を吐く。
帰り際に友人に言われた言葉が思い出された。

『今日は久々に会えて良かったよ、楽しかった!』
『私もだよ。また近いうち会おう』
『勿論!ところで名前ちゃん』
『ん?』
『会ってからずっと気になってたんだけど…彼氏、出来たの?』
『…え!?』
『だってほら!コレ』
『これ?』
『うん、ネックレス』
『こ、これは…そんなんじゃ…』
彼女が差したのは跡部さんから貰ったネックレス。
でもこれだけで彼氏だとか…
否定する私に万遍の笑みを向ける友人。
『あと…ココね!』
『うん?』
『え!気付いて無かったの?ああ、でもそこ自分じゃ見えないか』
ポカンとする私を見て苦笑いしている。
そして自分の耳の後ろ辺りをツンツンと指で突いて、衝撃的な一言を告げた。
『ついてるよ、アト!』


彼女の言葉を思い出して、その後トイレに駆け込んで鏡で確認したその『痕』を思い出して、どうにも堪らなくなって思い切りテーブルに突っ伏す。
カシャンと音を立ててネックレスがテーブルに着いた。
私が髪を耳に掛ける度に見えていたというそれは真新しい鬱血痕だった。
彼女の言う通り自分で見える位置ではない。
でも確かに存在するその痕をつけた人は誰なのか…思い当たる人はたった1人しかいなくて、どんどん熱くなる顔をテーブルに押し付けた。
「普通に話せる自信…ない…」
呟いた独り言がテーブルを伝って体に響いた。


「お客様、どうかされましたか?」
「!」
顔の熱が退くまで突っ伏していた私に声が掛かる。
具合が悪いのかと思われたのかも。
そう思って顔を上げると、そこにはニコニコと微笑む忍足さんが居た。
「お、忍足さん!」
「昨日ぶりやね。外から見えてな、百面相の子ぉが居るなあと思て」
「!」
一部始終を見られていたらしい。
私は口許を引き攣らせながら、ここに座る気満々の忍足さんを向かいに促した。
「お兄ちゃん、いつでも相談に乗ったるで?」
「だ、大丈夫ですッ!」
「そんな風に見えへんのやけどな〜」
「ッ」
忍足さんはいつでも、色々分かった上で私に接して来る。
楽しそうな所申し訳ないけれど今は楽しくお食事出来る気分ではない。
「…忍足さん、あの…私」
「あああそうや、名前ちゃん」
「…はい」
ほら、こうやって出鼻を挫かれるのも何度あった事か…。
未だニコニコしている忍足さんに視線を向けると、更に微笑まれた。
「名前ちゃんが実家に居る時、めっちゃメールして堪忍な」
「あ、いえ…ご心配お掛けしました」
「そんなんええんやけど…ちなみに…跡部からのメールは?」
「……ああ…まだ見ていません」
「ええ!未読のまんまかいな!」
「はい…」
そう。
あの時跡部さんから来た1通のメールは、今現在も未読のまま残されていた。
忍足さんとの電話越しに聞こえたあの跡部さんの言葉が、私の心を抉る様にして傷痕を残していたから。
『苗字が何処で何していようが俺には関係ねえだろうが!』
私をじっと見て来る忍足さんに、あの言葉を思い出して情けない笑顔を向けてしまった。
「…読んだってえな」
「え?」
「メール、読んだってや」
「…どうして…」
「跡部がどんだけ心配しとったか、分かるはずやから」
「え…」
私の頭を撫でて微笑む忍足さんに首を傾げる。
そこでその話は終わってしまった様で、忍足さんは料理を注文して世間話を始めた。
私のモヤモヤは広がるばかりだった。

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