結局私は跡部さんからのお礼としてネックレスを受け取った。
ショーケースの上に幾つか並べられた物の中から選べと言われて…
でも私は恐縮するばかりで一向に選べなかった為、跡部さんが選んでくれたのだけれど。
正面に向かい合って眺められたり、鏡越しに見られたり、とても生きた心地がしなかった。
思い出しただけで今も心臓が暴れ出す。
『お前、本当に物欲が無いんだな』
『物欲がないというか…ただ食事を提供してるだけなのにこんな高価な物をいただくのは申し訳なくて』
『あーん?俺が礼をしたいんだからいいんだよ』
『…はぁ』
『嬉しくねえか』
『え!すみません!そういう意味じゃ!』
『なら黙って受け取れ』
『ありがとう、ございます…』
『ああ。良く似合ってるじゃねえの』
『!』
『お前はゴールドやシルバーより、柔らかいローズゴールドの方が似合うな』
『あ、ありがとうございます…跡部さん』
私の首元で輝く小振りなキーモチーフのネックレス。
男の人からこんな高価な物を貰った事も、まして一緒にお店に来た事も無い私には夢の様な時間だった。
「跡部さん。今日は本当にありがとうございました」
「いや、俺も…いい休日になった」
「ネックレスもありがとうございます…大切にします」
「ああ。…苗字、お前明日も休みだろ?」
「はい」
「暇なら……映画でも観に行くか」
「え」
「お前、オペラなんか興味ねえだろ?」
「オペラは行った事ないです」
「じゃあやはり映画だな」
「あ、あの…確か跡部さん映画は趣味じゃないって…」
「…」
「跡部さん?」
「……忍足がうるせえからな」
「え?忍足さんですか?忍足さんがなんで…」
「っそんな事はいい。行くのか?行かねえのか?」
「あ、い、行きます!」
「なら明日、一緒に朝食摂って出掛けるぞ」
「はいっ」
「じゃあな…おやすみ」
「はい!おやすみなさい」
いつもの様に跡部さんは私が部屋に入るのを見届けてくれた。
パタンと閉まった扉に背を預けて息を吐く。
首元で揺れたネックレスに指を這わせれば、ドキドキと胸が高鳴った。
明日も、跡部さんと一緒に過ごせるんだ。
自然と上がる頬。
もう隠し様が無かった。
私は跡部さんと一緒に居られる事が嬉しくて仕方ないのだ。
それはつまり…。
自覚してしまえばそれは膨れ上がる一方だ。
頑丈に閉じ込めておいたはずの気持ちは、堰を切った様に溢れ出した。
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