ピンポン
玄関からの呼び出しに、慌ただしく荷物を持って駆け出した。
ドアを開ければラフな服装の跡部さん。
いきなりべしっと頭を叩かれた。
「いた…」
「お前な……モニターで相手確認してから出ろっていつも言ってるだろう」
「あ…すみません。おはようございます、跡部さん」
「ったく、しょうがねえな……はよ」
薄く微笑んだ跡部さんに見惚れそうになったのは言うまでもない。
昨日の約束通り、私たちは休日を一緒に過ごしていた。
これは所謂『デート』と言うものに分類されるのかもしれないけど、その言葉は私には重過ぎるのであまり考えない様にしている。
もし過度に意識してしまったら正常で居られる自信が無い。
いつも高級なお店ばかりを訪れているであろう跡部さんは予想通り、私が案内する庶民的スポットに常に興味を示していた。
これでは出会った初日に行ったコンビニでさえも初めてだったのではないかという程だ。
暫くウィンドウショッピングを楽しんでから、ファーストフード店でランチをする事にした。
「…知ってはいたが、食べるのは初めてだな」
「結構美味しいんですよ」
「食べるか」
「はい」
「「いだたきます」」
声が揃って思わず一緒に吹き出した。
『悪くはねえな』と言いながら黙々と食べる跡部さんはなんだか可愛かった。
食後はまた歩いて街を回った。
ふと世間話が途切れると、跡部さんがゆっくりと歩みを止める。
「どうかしましたか?」
「苗字…」
「はい」
「お前、何か欲しい物は無いのか?」
「え?欲しい物、ですか?」
「ああ、礼がしたい」
「お礼?」
「ああ。お前にはいつも世話になってるからな」
「え!いいですよそんなの!」
「いいから…ああ、この店はどうだ?見てみろ」
「あ、跡部さん!私いいですから!」
「ほら、来い」
「!」
跡部さんは私の手首を掴むと、庶民派の中でも少し高級なお店に足を踏み入れた。
ちなみに私は入った事は一度も無い。
可愛いアクセサリーに見惚れてウィンドウを眺めるくらいで丁度いい。
ぐいぐいと手を引かれてお店に入ると、にこやかに店員さんが近寄って来た。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?よろしければご案内いたします」
「ああ、そうだな…女性もののネックレスを」
「あ、跡部さん!」
「はい、こちらになります」
私の呼び掛けなど完全無視の跡部さん。
あれよあれよという間にネックレス売り場に通されてしまった。
うわ…綺麗、だけど…
キラキラと輝くアクセサリーがその金額を物語っている、恐ろしい。
店員さんがショーケースから幾つか取り出して並べ始めた。
跡部さんはそのネックレスと私を交互に見て、私に合う物を考えてくれている様だ。
「こちらなどいかがでしょうか?」
「…どうだ?苗字」
「え!跡部さん…本当に私」
「もうその話は済んだ。今はどれがいいかの話だぜ?」
「ええ!」
『買わない』という選択肢はいつの間にか無かったらしい。
私たちの様子に不意に店員さんが微笑んだ。
「あーん?」
「申し訳ありません。とても仲がおよろしい様に見えまして、つい」
「!」
「ああ、そうだな。よく分かってるじゃねえの」
「!あ、跡部さん!?」
そう言って微笑んだ跡部さんがあまりにも綺麗で、暫く目を離せなかった。
prev / next