キミのトナリ | ナノ

お誘い

「名前ちゃん、よう分かっとるやん!俺もそう思っとった」
「あ、そうなんですか?」
「やっぱ俺ら趣味合うんちゃう?」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ!そこは『そうですね』やろ!」
「おい忍足」
「ん?なん?」
「何じゃねえよ。お前いつまで居るつもりだ」
「ええやんか別に〜!盛り上がっとるとこ邪魔せんとって」
「あーん?」
跡部さんの言葉はごもっともだ。
それは私にも言える事で…
現在時刻は22時を回った所。
明日は休日という事で、私はまた跡部さんと一緒にのんびり食事をしていた。
食事を終えてそろそろ帰ろうかという所で忍足さんがやって来て、腕を引かれてソファに逆戻りしたというわけだ。
食事も済んだし私は早くお暇しなければ。
そう思うのに、忍足さんの『恋愛小説、映画論議』が始まってしまって足止めを食っている。
更には私の意見がどうにも忍足さんの意見と合致してしまって、お酒の入った忍足さんはどんどん饒舌になる一方だ。
私はそんなに読んだり観たりする人間じゃないのに。
数少ない触れた作品が忍足さんにヒットしてしまったらしい。
「ほんならまた今度映画でも観に行こか!めっちゃおススメなのがあるんや」
「…また?」
「あ」
忍足さんの言葉に跡部さんが反応した。
そういえば跡部さんには、私が忍足さんと映画をご一緒した事を話した事は無かったかもしれない。
隣からなんとなく視線を感じる。
「お前ら、一緒に映画観に行ったのか?」
「ああ、跡部には言うてへんかったか。こないだ一緒したんや、な?名前ちゃん」
「は、はい。お休みの日にたまたま映画館でお会いして」
「たまたまちゃうな、アレは運命や!こない話の合う子なかなか居らへん!」
「え、そうなんですか…」
「寄って来るお嬢さん方は恋愛映画なんて興味あらへんしなぁ」
「いや、私もそこまで好きというわけでは…」
「ええー?名前ちゃんめっちゃいい感性しとるで!」
「それは…どうも、です」
「お、そうや!跡部も今度観に行くか?」
「…あーん?」
「景ちゃんもああいうの観てもっと恋愛に柔軟になった方がええんちゃう?」
「…趣味じゃねえよ、誰が行くか」
「残念やなぁ。ほんなら名前ちゃんの休日は俺がレンタルや、名前ちゃんよろしゅう」
「レンタル!?」
「忍足…苗字は物じゃねえぞ」
「物やなんて言うてないで?なあ、お姫さん?」
「!」
「あんまからかってんじゃねえよ」
「からかってへん。跡部やって食事やなんや毎日世話んなっとるやん?たまに俺が名前ちゃんとデートしたって文句あらへんやろ」
「デートだと?」
「で、デート!?」
跡部さんと私の声が重なった。
反対側に座っている忍足さんは私たちの様子を微笑みながら見ている。
「名前ちゃん、どうや?早速やけど明日か明後日暇?」
「え、あ、私は…」
困った。
映画を観るのは嫌じゃないけど、忍足さんと2人でっていうのはあまりよろしくない。
この間も恋愛について延々と語られてぐったりした。
かと言って特に予定も入っていないし、嘘をつくのも気が引ける。
困り果てていると隣から声が上がった。
「諦めろ、忍足」
「ん?なんや、跡部」
「2日とも苗字は俺と過ごす事になってる」
「!」
「へぇ、そうやったん?名前ちゃん」
「え!」
「だよな?苗字」
隣を見れば跡部さんと目が合った。
どうしてこうなったかなんて分からないけど、頷けと無言の圧力を掛けられているのだけはビシビシと感じた。
こんな表情の跡部さんは初めてかもしれない。
私が困ってるのに気付いて助け舟を出してくれたのだろうか。
「あの…はい。そう、です」
「そうなんや〜、残念。ほんならまた誘うわ」
「今まで通り1人で行けばいいだろう」
「せーっかく同志見つけたんやし、分かち合いたいやん」
「苗字を巻き込むんじゃねえ」
「巻き込むて、景ちゃんったら人聞き悪いなぁ」
「誘えば着いて来る女ならいくらでも居るだろうが」
「分かってへんなぁ。言うたやん?こんな運命の相手居らへんて」
「忍足、お前」
「あの!」
私の呼び掛けに2人の話が途切れた。
なんだか居た堪れなくなって思わず声を上げてしまった。
「すみません。私、そろそろお暇しますっ」
「ああ、もうこんな時間やったん」
「お前は時間を気にしなさ過ぎだ」
「はは、堪忍な」
片付けをしようと動けば跡部さんに手で制された。
後で俺がやると言って綺麗に微笑まれてしまえば出来るはずも無く。
帰り支度をして玄関を出た忍足さんに続いて、私も靴を履いた。
跡部さんは早々に立ち去った忍足さんに『ったく迷惑なヤツだ』と零しながらもそこに嫌悪は感じられなくて、やっぱり仲がいいんだなと微笑ましかった。
「跡部さん、遅くまでお邪魔しました」
「お前はあの眼鏡に付き合わされただけだろ」
「そ、そんな事は…」
「…苗字」
「はい」
「…明日」
「?」
「暇か?」
「!は、はい」
「…何処か行くか、一緒に」
「え!」
気まずそうに首に手をやって視線を逸らした跡部さんにキュンとしてしまったなんて、そんなのきっと跡部さんに失礼だ。
だけどきっと今私の顔は気持ち悪いくらいに赤くなってると思う。
冗談だと思っていた話は現実になってしまった。

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