キミのトナリ | ナノ

恋愛123

日曜日。
たまには映画でも観ようだなんて思った数時間前の自分を少しだけ…否、結構恨んだ。
「名前ちゃんやん」
「(げ)忍足さん…こんにちは」
嫌悪が少しは顔に出たかもしれないけれど、心の声が出てしまわなかったのが幸いだ。
チケットを買い終えた私に近寄って来たのは忍足さんだった。
私のチケットを覗き込んでパァっと嬉しそうな表情になる。
「名前ちゃん!コレ今から観るん?一緒に観よや!」
「え、ちょっと、忍足さん」
勢い付いて迫って来る忍足さんに戸惑うしかない。
一体なんのスイッチが入ったというのか。
勝手に私の座席を確認してチケットカウンターに走り、1枚のチケットを嬉しそうにヒラヒラさせながら戻って来た。
あれ、そういえば忍足さんがこんなに笑ってるの初めて見るかも。
「隣、よろしゅうな」
「え!」
「名前ちゃんが恋愛の映画に興味あるなんて思わんかったわ!同志や、同志」
「ええっ」
断じて違う。
最近ヒットしてる映画だし、他に観たいと思うものもなかったからこの映画にしただけなのに。
弁解しようにも1人テンションの上がった忍足さんは売店へ行ってしまい、チャンスを逃してしまった。
ガックリと項垂れる。
忍足さんに映画鑑賞の趣味があったなんて…しかも恋愛もの…。
「名前ちゃん、もうすぐやで!行こか!」
「…は、はい」
ポップコーンと2人分の飲み物を抱えて嬉しそうに入り口に向かう姿を見て、少しだけ自分の中の忍足さんという人の印象が変わったなと思った。

「あそこは良かったと思わん?」
「はい、思います」
鑑賞中、そっと隣を見たら忍足さんは食い入る様に真剣にスクリーンに見入っていた。
そんな姿を見て自分ももうちょっとしっかり観てみようと思えた。
その結果、思いの外感情移入してしまったというわけだ。
近くのカフェでお茶をしなっがら、忍足さんの饒舌な感想に相槌を打つ。
「まあ、実際はありえへん事やと思うけど。だからこそ映画はええと思うんよ」
「そうかもしれませんね」
「名前ちゃん絶対奥手やと思うけど、恋くらいはした事あるやろ?」
「まあ…人並みには」
「で、例えばや。手近な所で…名前ちゃんが跡部ん事好きになったとするやん?」
「っぶー!」
「ちょ、名前ちゃん平気か!」
「すみませんっ、有り得ない例え話だったので」
「…ふぅん?」
「?…はい」
私の心の中を覗こうとするかの様な視線をぶつけて来る忍足さん。
何かおかしかっただろうか?
「名前ちゃん、なんや変わったなぁ?」
「え?」
「自分、確か前はもし跡部が彼氏やったらって話した時は『想像がつかないから分からない』様な事言うてへんかった?」
「え…」
「『有り得ない』て思ったちゅう事は、『想像出来た』んやろな」
「!」
「…ほぉ〜?何か心境に変化があったんやろか?」
こ、怖い。
この人怖過ぎる。
「んー、まあええわ」
「…」
「とりあえずせっかくの機会や。恋愛について語り合おか?名前ちゃん」
「あ、あはは」
女の子のどんな仕草にキュンと来るとか男はこんな事考えてるだとか。
この後暫く、忍足さんの恋愛観を聞かされ続けた。
忍足さんに対する苦手意識は多少無くなったかもしれないけれど、もう二度と恋愛の話はしたくないなと思った。

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