キミのトナリ | ナノ

旧友

跡部さんからカードキーを預かってから数日。
頼まれた通り食事を作って用意しておいたり届けたり、自分の予定に合わせて上手い事こなしている。
ちょっとだけ家政婦になった気分だ。
お弁当は朝跡部さんが家を出る前にドアノブに掛けるようにしている。
ちなみにお弁当箱は跡部さんが何個か買って来て、私が預かっている状態だ。
その辺じゃ売ってなさそうななんだか如何にも上品なお弁当箱で…おかずを詰め込むのちょっと緊張する。
今日残業の私は帰りがかなり遅くなるので、夕飯も朝のうちに跡部さんに届けた。
私にとっては特に苦になってはいないのだけど、跡部さんはいつも『悪いな』と言って何かと御礼をしようとしてくれる。
食費をいただいてるからいいって言っているのに。

残業を終えて家に帰ると、跡部さんの家の前に人影。
私の足音に反応してこちらを向いた。
跡部さんのお友達だろうか。
軽く会釈をして通り過ぎると声が掛かった。
「自分、苗字名前ちゃん?」
「え…あ、はい」
フルネームで呼ばれて驚いた。
顔を横に向ける。
なかなかに珍しい丸眼鏡に少し長めの髪、スラリとした長身の男性と目が合った。
「やっぱり、そうやんな。跡部から話聞いとるで」
「あ、跡部さんの…お友達の方ですか?」
「ああ、忍足侑士や。いきなり話し掛けてすまんな。跡部が世話んなってるて聞いたで…おおきにな」
「忍足さん、ですか。あ…私も跡部さんにはお世話になっていますので」
「自分、跡部の話通りめっちゃ真面目な子ぉやな」
「え?なんですかそれ」
玄関前で話し込む形になってしまってどうしようかと思っていると、ガチャリとドアが開く。
出て来たのは勿論跡部さんだ。
「何やってんだ忍足、て…苗字」
「出るん遅いで、跡部」
「あ、こんばんは。跡部さん」
「ああ。今帰りか…遅くまでお疲れ」
「跡部さんもお疲れ様です」
「で、何こんな所で話し込んでんだ?」
「今ちょうど名前ちゃんが帰って来てな。ちょっとご挨拶しとった所や」
「…お前何いきなり名前で呼んでやがる」
「ああ堪忍な…名前ちゃん、あかんかった?」
「いえ…気にしてないですよ」
「なら良かったわ」
「おい忍足、入るならとっとと入れ」
「なんやねん、跡部が開けるん遅かったんやないか」
「うるせえ」
「じゃあ…跡部さん忍足さん、私はこれで」
どうやら忍足さんは跡部さんの家に上がるようだったので、私はさっさとお暇する事にした。
だけどカードキーを出して鍵を開けようとすると、跡部さんに呼び止められる。
「苗字、夕食はまだだろ?」
「あ、はい」
「一緒にどうだ?」
「え?」
「そうやね、名前ちゃんも一緒に食べよや」
「いや、私は…」
「用があるのか?」
「いえ、せっかくお友達とお食事の所私なんかがお邪魔するわけには」
「なんや、そんな事気にしとるんか。やっぱええ子やな」
「気にする事はない。忍足が勝手に押しかけて来ただけだ」
「あら、景ちゃんたら酷い!」
「うるせえぞ、その呼び方止めろ」
「ええやん別に」
「お前がどうしてもというから招いてやったんじゃねえか」
「景ちゃんがどんな美味いもん食うてるんか気になるやん」
「だからその呼び方はっ」
「っふふ…あ、す、すみません」
2人のやり取りに思わず吹き出してしまった。
慌てて謝れば微笑む忍足さんに頭をポンポンされた。
「謝らんでええよ」
「は、はい。お2人、仲がいいんですね」
「おい、何処を見てそんな風に思うんだお前は」
「分かるか?俺ら中学からの付き合いやねん」
「わあ!中学からですか!」
「…腐れ縁だ」
「素敵ですね。長い付き合いのお友達が居るって」
「せやろ?」
「ったく、いいから早く上がれ。お前もだ、苗字」
「えっ」
「さ、上がって上がって」
「…お前の家じゃねえだろうが」
忍足さんに手を引かれて、結局私も跡部さんの家にお邪魔する事になってしまった。
忍足さん、なかなか強引だ。

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