キミのトナリ | ナノ

日曜日

跡部さんは昨日のカレーの残りを昼まで保たせると言って持ち帰った。
夕飯はハンバーグが食べたいとリクエストをいただいたので現在、一生懸命タネを捏ねている。
人から頼られるとどうにも頑張ってしまう性分で、今だって『美味しい』と言って貰えた事が嬉しくて気分良く作っている所だ。
今日は午前中はのんびりショッピングに出掛けて、午後は部屋掃除をした。
後は夕飯の準備のみと、なかなか充実した休日を送れていると思う。
「隠し味も入れちゃおう」
鼻唄混じりに作業しているとインターホンが鳴った。
時計を見れば17時。
ちょっと早いけど跡部さんだろうか。
急いで手を洗う。
モニターには予想通りの跡部さん。
急いで玄関に向かった。
「こんにちは」
「…だから、まずインターホンに出てから玄関を開けろと」
「あ。あはは」
また言われてしまった。
今日の跡部さんは完全に休日らしい。
白のロンTにニットベスト、下はジーパンと大分ラフだ。
だけど、ファッション誌にでも載りそうなくらい似合ってて…かっこいい。
「何か手伝うか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「もう終わってるのか?」
「はい。あとは焼くだけなので」
「なら、お前も休憩したらどうだ?」
「あ、はい。じゃあそうします」
「お前が良ければ、俺がコーヒーでも淹れるが」
「え?」
「礼だ、礼」
「いや、食費もいただいてますし」
「まあいいから、そこ座ってろ」
そう言って私の肩をトンと押してソファに座らせ、跡部さんはキッチンに向かった。
お茶の用意は分かりやすい所に置いてはあるけど、1つ問題が。
「跡部さん」
「なんだ?」
「すみません。私コーヒー飲めないんです」
「…本気か」
「…本気です」
そう。
私はコーヒーが苦手でいつも紅茶なのだ。
カウンターで驚愕に目を見開く跡部さんと目が合った。
「…」
「あ、跡部さん?」
「っくく。はは!!」
「あのー」
「お子様だな」
「…よく言われます」
「くく」
「笑い過ぎです」
「っふ、悪い。なら…紅茶をお淹れしますよ、お嬢様?」
「!!すいません」
心臓に悪いから止めて欲しい。
ニッと笑ってティーポットを掲げる姿が似合い過ぎていて、ドキドキしないわけがなかった。

夕食。
跡部さんはまた残さず綺麗に食べてくれた。
『やはりお前の作る物は美味いな』
何も言わずに上品な手付きで黙々と食べ続け、全て食べ終えてからそう言ってくれた。
急に目を合わせて真剣な表情で言うものだから心臓に悪い。
そして今、洗い物をする私の横で、跡部さんは食器を拭いてくれている。
座ってて下さいと断ったのだけど、聞いてくれなかった。
「今日のハンバーグ、何か特別な物を入れたか?」
「あ、はい。特別という物でもないんですけど」
「食べた事の無い味だった」
「そうですか?庶民的な隠し味なんですけどね、母直伝なんです」
「苗字が料理が得意なのは母親譲りか」
「んー、そうですね。ほとんど母の味だと思います」
洗い物をしながら他愛もない話をする。
いつもは1人だからか、誰かと居るこの時間がなんだか凄くホッとするような満たされるような。
とても心地いい時間が流れた。
「跡部さんも明日からまたお仕事ですよね?」
「ああ。苗字もか?」
「はい」
「お前はいつも何時頃帰宅するんだ?」
「だいたいは定時で18時上がりなんですけど、木金は20時とか…遅い時は22時くらいとか、ですかね」
「そうか…やはり食事を毎日頼むのは厳しいか」
「え?別に大丈夫ですけど」
「…お前は本当に、お人好しというか…」
「あれ、おかしいですか?」
「いや、褒めてんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「俺はだいたい毎日20時〜21時位の帰宅なんだが、それから邪魔しても大丈夫か?」
「はい。私は構いません」
「…そうだな。お前に渡しておくか」
「?」
丁度洗い物も終わったので隣を見ると、跡部さんはポケットからお財布を取り出していた。
首を傾げていると、カードを取り出して私に向かって見せる。
それは私もよく見慣れたもので…
「…カードキー?」
「ああ。お前にスペア渡しておく」
「え!?」
「毎日家に飯食いに来られても困るだろ。お前が家だと都合が悪い時はこれを使って俺の部屋に入れ」
「ちょ、こんな大事な物預かれません!」
「食事を運んで置いておいてくれるだけでもいい」
「跡部さん、そんな簡単に他人を信じちゃ…」
「あーん?お前はこれを悪用するような悪い女なのか?」
「いや…そういう問題じゃ」
「いいから受け取れ」
「っわ!」
私のおデコにパシッと音を立ててカードキーを押し付けられた。
なんだか更に大変な事になってしまった。
「とりあえず明日は帰りが遅いから、早速家に運んでおいてくれ」
「は、はい…」
カードキーをおデコから離して手渡す跡部さん。
見慣れた薄っぺらいただのカードが物凄く重く感じた。

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