キミのトナリ | ナノ

突然の提案

ピンポン
時刻は18時。
メールで連絡を受けて30分程で跡部さんが来た。
「お疲れ様です」
「…だからインターホンで確認しろ」
「あ、すいません」
玄関を開けると朝と同じ様に注意された。
朝と違うのは跡部さんがスーツ姿だという事。
リビングに通してお茶を煎れる。
「休日出勤でもスーツなんですね」
「ああ。着替えてくれば良かったな…ちょっと着崩してもいいか?」
「はい、勿論です」
跡部さんがジャケットを脱いでソファに掛けたので、何も言わずにそれをハンガーに掛けて下げると驚いた表情でこちらを見た。
「あの…何か?」
「お前、結構気が利くじゃねえの」
「え、あ、そうですか?」
「なんだそれ。くくっ」
何故か笑いながらグイとネクタイを緩めた跡部さんにちょっとだけ見惚れる。
無駄にかっこいい人だ。
赤くなりそうになった頬を擦っていると、未だ感じる視線。
跡部さんがこっちを見ている。
「?どうかしました?」
「お前朝から引きこもってんのか?」
「あー、はい。今日は引きこもりです」
「くくっ。朝は言い忘れたが…スッピンも悪くねえじゃねえの」
「!!す、すみません!お見苦しいものを…」
「っふ」
笑われた。
すっかり忘れていたけど私、朝からコレだったのだ。
スッピン部屋着で知り合ったばかりの男の人を家に上げられるなんて、女子力が低過ぎるというか微塵もないじゃないか。
愕然としていると、それを見てまた笑われた。
ちょっと早いけど夕飯の準備をとキッチンに隠れると、跡部さんは電話が掛かって来たらしく通話を始めた。
私は今跡部さんに背を向ける形で立っているし聞き耳を立てているつもりはないけど、リビングの声はよく響くから結構聞こえてしまう。
「なんの用だ」
「…その話は断ったはずだが?」
「考え直す?何をだ」
「無いな。これ以上同じ事を言わせるな」
「…興味はねえと言ってる」
「あの食事は仕事上の物だろう」
「あの程度で勘違いされるようならもう二度と会う事はねえな」
…。
ええと…明らかに女性絡み。
思わず準備の手が止まって気まずいなあと思っていると、突然背後に人の気配。
「!!あ、跡部さん」
「なんだ…そんなに驚いたか」
「い、いえ!」
「ん?」
「…」
「…」
「…」
「…ああ、さっきの電話聞こえてたのか」
「う…すみません、聞くつもりは無かったんですけど」
「別に謝る事じゃねえ。面倒な女が居るってだけの話だ」
「あ、そうなんですか」
「女なんてどいつもこいつも…」
「…」
「ああ、お前は俺の周りには居ないタイプだな」
「…うーん。それは褒められてるんでしょうか、貶されてるんでしょうか」
「は?…っくく!安心しろ、褒めてんだよ」
「はぁ」
「っくくく!」
よく分からないけどツボったらしく、跡部さんは笑いながら食器を出すのを手伝ってくれた。
跡部さんは美味い美味いとカレーをどんどん口に運びあっという間に皿を空け、おかわりまでしてくれた。
気に入って貰えたようで良かった。
食後私はキッチンで洗い物をしながら、リビングで寛ぐ跡部さんに声を掛けた。
「跡部さん!ケーキも一緒にどうですか?」
「ん?」
「あ、お時間があれば」
「どうせ帰って寝るだけだ、時間はある」
「じゃあ今準備しますね」
「悪いな」
紅茶を淹れてケーキと一緒にテーブルに並べる。
跡部さんに向かい合って座ると、不意に目が合った。
「なんですか?」
「いや。苗字とは知り合ったばかりなのに…随分馴染みの様だと思っただけだ」
「ふふ、そういえばそうですね」
「…提案があるんだが」
「はい、なんでしょう?」
「俺の食事をお前に依頼してもいいか?」
「へ?」
跡部さんが突然言った。
い、依頼って…。
「勿論食費は支払う」
「え、あ、跡部さん?」
「無理なら無理で断っていい。だが…」
「?」
「…苗字の飯を食ったら、外食も買い弁も口に出来なくなりそうだ」
「えっ」
妙な展開になった。
これから私は跡部さんに食事を提供する事になってしまった。
あんな事を言われたら無下に断る事なんて出来ない。
それに料理を褒められるのは嬉しい。
単純な私は案外あっさりと了承の意を示した。

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