跡部さんが朝ご飯を食べに来た翌日。
休日の今日は家でダラダラすると決めて、ノーメイクに部屋着スタイルだ。
とりあえず夕飯用にとカレーを仕込む。
圧力鍋で手早く煮込んで、自分流にブレンドしたルーとスパイスを投入。
そしてお鍋をぐつぐつさせている間に服のアイロン掛けだ。
うん、実にスムーズ。
これが終わったらゴロゴロしよう。
鼻唄を歌いながらシャツの皺を伸ばしていると、インターホンが鳴った。
モニターを見るとそこには普段着の跡部さん。
まだ出会って間もないけど、スーツ以外の跡部さんを見るのは初めてだ。
…何でも着こなせるらしい。
ところでどうかしたのだろうか?
とりあえず玄関に急ぐ。
「おはようございます、跡部さん」
「おい…誰か確認する前に開けるんじゃねえ」
「モニターで確認しましたよ?」
「人違いだったらどうする。インターホンで確認しろ」
「いや、跡部さんは跡部さんですし(間違えようもない)」
「……まあいい。ほら、受け取れ」
「え?」
目の前に差し出されたのは白い箱。
見た感じケーキの様だ。
「跡部さん?」
「昨日の礼だ」
「いいですって言ったのに」
「俺の気が済まねえ…それからこれ」
「あ、お弁当箱!」
「美味かった。サンキュ」
「いえいえ、お粗末様でした」
「いや。お前、料理上手いんだな」
「そんな事ないですよ」
「…」
「…」
暫しの沈黙。
すると跡部さんがポツリと呟いた。
「…カレーか」
「あ、はい。夜はカレーにしようかと」
「夜の分を今から作ってんのか?」
「時間が経った方が美味しいですから」
「…マメなヤツだな」
「良かったら、お鍋に分けましょうか?」
「…」
「あ!すみません、差し出がましいですね」
「いや」
「?」
「夜、食いに来る」
「へ?」
「これから夕方まで仕事だ。終わったらまた来る」
「あ…そう、ですか…」
「…迷惑なら止めるが」
「い、いえ!迷惑だなんて!」
「男でも来るんじゃねえか?」
「残念ながらそんな人は居ません」
「そうか」
「あ、何時くらいになりますか?」
「終わったら連絡する…ああ、携帯教えろ」
「あ、はい」
とんとん拍子で連絡先を交換する事になった。
まあお隣さんなわけだし、これから先も付き合っていくのだから特に問題はないけど。
『それ、ケーキだからティータイムにでも食え』
そう言って去って行った跡部さん。
ティータイム、ね…。
箱を開ければ、普段あまりお目に掛かれない様な珍しくて美味しそうなケーキが沢山。
これ、私1人じゃ絶対に食べきれないんですけど。
跡部さんがカレーを食べに来たらお手伝いして貰おうと決めた。
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