キミのトナリ | ナノ

朝食とお弁当

ダンッ!
バタバタバタ!
「!?」
突然隣の部屋から響いた音に、お弁当箱に詰めようとしていた卵焼きをポロリと落とした。
何の音だろう?
明らかに跡部さんの部屋から聞こえて来た。
…何かあったんだろうか。
その後は特に物音も立たなかったのだけどなんだか気になってしまって、迷惑かなと思いながらも跡部さんの部屋のインターホンを押していた。
部屋の奥からまたバタバタと音がして、物凄い勢いでドアが開いた。
「!お、おはようございます」
「あ、ああ…はよ」
「あの…大丈夫ですか?何かありましたか?」
「…いや」
「?」
言葉を濁した跡部さんに、ああこれは迷惑だったかなと早々に立ち去ろうとすると…
「待て」
呼び止められた。
でも額に手を当てて顔を隠したまま動かない。
「…あの」
「…」
「あ、跡部さん?」
「朝食」
「え?」
「朝食は済ませたか?」
「あ、今お弁当作りながら摘まんでたところで」
「弁当?」
「はい、毎日お弁当派なので」
「…」
「?」
「朝食、余ってるか?」
「あ、はい…」
「…」
「よ、良かったら…召し上がりますか?質素ですけど…」
「…いいのか?」
「はい」
…。
跡部さんは朝食に困っていたらしい。

「散らかってますけどどうぞ」
「邪魔する」
「お急ぎですよね?すぐ準備しますね!」
「悪いな」
跡部さんを座らせて、お弁当のおかずの残りを温めて並べる。
そういえば昨日コンビニで沢山買い込んでたような気がするけど、あれはどうしたんだろう?
まさか全部食べ切れるわけないよね。
お味噌汁を温めながら考えていると、跡部さんが私の疑問をあっさり解決してくれた。
「…昨日買ったヤツ、全部駄目にしちまった」
「へ?」
「部屋の片付けやり出したらすっかり忘れて…疲れて買ったままの状態で放置して寝た」
「悪くなっちゃいました?」
「否、多分平気なんだろうが…なんとなく」
「そうだったんですね。ちょっと分かります、味も落ちますしね」
「…いただきます」
「あ、どうぞ」
お味噌汁を差し出して自分も席に着く。
変な感じだ。
昨日知り合ったばかりの人が目の前で朝ご飯を食べてるなんて。
「うまい」
「ありがとうございます」
黙々と食べる跡部さん。
人に自分の料理を振る舞った事は無いので、美味しいと言って貰えるのは結構嬉しい。
そうだ。
夜の分までと作った肉じゃががある。
ご飯もあるし…お節介かもしれないけど、とりあえずお弁当もう1個作ろう。
要らないと言われれば自分の夕飯にすればいい。
私はもう1つお弁当箱を出して、跡部さんに見つからない様にカウンターの奥でこっそり詰めた。
「苗字、ご馳走様。シンク借りるぞ」
「え?いいですよ!そこ置いといてください」
「いや、だが…」
「遅れちゃいますよ?」
「……悪い」
「気にしないで下さい」
「礼は今度する」
「そんなのいいですから」
「あーん?俺がするって言ってるんだ」
「は、はぁ…」
デジャヴ。
上から見下ろされる形になって感じる妙な威圧感だ。
あーん、て何だ。
玄関に向かう跡部さんを、お弁当の包みを持って追い掛ける。
靴を履く後姿を見ながら待っている自分がなんだか滑稽だ。
まるで結婚してるみたいじゃないか、なんて考えが過ぎって頭を振った。
「じゃあな。朝から迷惑掛けたな」
「いえ、大丈夫ですよ。あの、これ良かったら」
「ん?」
「お弁当です」
「弁当?」
「あ、要らなければ自分で消化出来ますんで」
「要る」
「あ、はい…どうぞ」
「お前、結構お人好しだよな」
「そうでしょうか?」
「ふっ。有り難く貰っとく…じゃあな」
「はい。いってらっしゃい」
「…くくっ」
跡部さんはお弁当の包みをひょいと掲げて見せて、部屋を出て行った。
…。
いってらっしゃいは可笑しかったかもしれない。
今更ちょっと恥ずかしくなった。
でも、朝を誰かと一緒に過ごすのも悪くないななんて思ったり。
さて私も仕事に行く時間だ。

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