キミのトナリ | ナノ

跡部さんという人

コンビニに跡部さんを送り届けてから、すぐに帰ろうとすると呼び止められた。
「お礼にデザートの1つくらい奢らせてくれ」
そんなのいいのに。
ここまで歩く間に彼の話し方は大分砕けて、本来はちょっと『悪い』部類に入る言葉遣いなのかなとさえ思わせる話ぶりだ。
呼び方も『苗字』と苗字の呼び捨てになった。
ちょっとびっくりしたけど、変に堅苦しいよりはいいと思う。
まあ、そういう自分が未だに敬語なのだけど。
「菓子折りもいただきましたし、気にしないで下さい」
「そういうわけには行かねえ。何が好きなんだ?」
「いや、ホントに」
「あーん?」
「!?…じゃあ…プリンを」
あ、あーん?
今の威圧感はなんだろうか。
有無を言わせない迫力があった。
敬語が取れたらなんだか表の仮面も剥がれ落ちて来たような…。
もしかして物凄く怖い人なんじゃ…なんて考えが浮かぶ。
結局、跡部さんが買い物を済ませるまで待つ事になった。
悪いかなと思いながらも、彼が買い物をする姿を観察する。
わあ、凄い。
ポイポイとカゴに投げ込まれるのは、お弁当や菓子パンやお惣菜。
一体何日分だろうか。
自炊はしないタイプと見た。
両手にコンビニ袋を持って跡部さんが戻って来た。
「待たせたな」
「いえ。逆になんかすみません」
「プリンの事か?俺が買いたくて買ったんだから気にするな」
「ありがとうございます」
「だいたいこんな時間に女を1人で歩かせられねえだろ」
元から私を1人で帰す気は無かったらしい。
こんな事を自然にやってのける所はなんとなく女性の扱いを知っているというか、女慣れしているような気もする。
なんて妙な事を考えた頭を左右に軽く振った。

マンションに着いて、両手が塞がっている跡部さんを押し退けてエントランスを開錠した。
『悪いな』と言いながらも先に私を中に入れる紳士っぷりは素晴らしい。
部屋の前に着いて跡部さんに向き合い、改めてお礼を言った。
「じゃあ、あの…ありがとうございました」
「くく…そりゃこっちの台詞なんだが」
「いや、プリンいただいちゃったので」
「律儀なヤツだな」
「跡部さんもなかなか」
「…お前、おもしれえな」
「え?」
「ああ、そういえば。敬語はいらねえぞ」
「善処します…」
「っくく。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
別れた後、部屋に入るまで跡部さんは私を見ていた。
なんというか、レディーファーストというのか…私は慣れてないので色々恥ずかしい。
帰宅して暫くすると隣の部屋から物音がした。
ガタンと言う結構な音だったけど、何があったんだろうか。
気になるけどとりあえず寝よう。
明日も仕事だ。

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