キミのトナリ | ナノ

出会い

春のまだ少し冷たい風が吹くある日。
私を待ち受けていたその人は、
私の運命の人、でした。


「こんばんは」
「?こんばんは」
「夜分すみません。隣に越して来た跡部と言います。これからお世話になります」
そう言って軽く会釈したスーツ姿の男性は、恐ろしく整った顔をしていて身のこなしもスマート。
育ちの良さが窺える。
私の部屋の前で佇んで居た所を見ると、これから挨拶に来ようとしてくれていたのかもしれない。
右隣の部屋の表札が『跡部』と真新しい物に変えられていた。
珍しい苗字だな。
「あ、こちらこそ。苗字と言います、よろしくお願いします」
「日中いらっしゃらなかった様なので…こんな時間にすみません。これ、つまらない物ですがどうぞ」
「え、ありがとうございます。わざわざすみません」
つまらない物として渡されるにはあまりにも相応しくない高そうな包みを受け取り、お礼を言って自室のカードキーを取り出した所で呼び止められた。
「あの」
「…はい」
「一番近いコンビニ、何処ですかね?」
「住宅街なのであまり数が無いんですけど…一番近くだと駅の方に向かって3つ目の信号を右に曲がって、暫く行った公園の十字路を左に行った所に…」
「ああ、結構遠いんですね」
「はい…あ!私、ご一緒しましょうか」
「え?」
「あ!もし良ければ。この辺入り組んでいるので、ご迷惑でなければご案内しますよ」
「迷惑だなんてまさか。いいんですか?」
「はい」
「じゃあ。すみませんが、お願いします」
「はい、行きましょう」
困った人を放っておけない性質というか…人からは世話好き、絶対損する性格とよく言われる。
特に損をしたと感じた事は無いけど、そこが無自覚だからきっと何事も当たり障りなく立ち回れているんだろうと両親から言われた。
両親という二文字で、早く結婚して孫を抱かせろと煩い2人を思い出す。
エレベーターまでの通路を歩きながら変な溜息が漏れた。
「…お疲れですか?」
「!あ、すみません。ちょっと嫌な事思い出しちゃいまして」
疲れていると勘違いされてしまったらしい。
仕事は好きなので疲れると思った事は無い。
「そうなんですか?…あの、失礼ですが年齢おいくつでしょうか?」
「年?25です」
「俺の1つ下ですね」
「1つですか!?」
「はい…何か?」
「す、すみません。とても落ち着いてらっしゃるので、もう少し離れているかと」
「くくっ。よく言われます」
「あの…敬語でなくても大丈夫ですよ?」
「…そうですか?」
「はい、気にしませんから」
「じゃあ…徐々に。なら苗字さんも」
「ふふ。そうですね」
初対面にしてはやけに穏やかに流れる時間を心地良いと感じつつ、夜道を2人コンビニに向かった。

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