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青峰



【自動車整備士】


「大輝ー」
カラカラ。
「よぉ。ん、今日は黒か…いてえ」
車の下から仰向けで現れた大輝を踏みつけてやった。
相変わらずのスケベ。
大輝は自動車整備士だ。
親戚のオジサンの所で働いてる。
腕を見込まれていずれここを継ぐ事になっているらしい。
おバカな大輝が好きな事を見つけて頑張って自分の仕事にしたのが嬉しくて、私は我が子を見守る母のような気分だ。
あはは、またほっぺが汚れてる。
青いツナギをパンパンと叩いて、作業は一旦休憩のようだ。
「名前、お前明日暇?」
「暇だよ。大輝休みなの?」
「おー。昼くらいに迎え行く」
「分かった」
明日の予定が決まった!
最近忙しいみたいでゆっくり会えなかったから嬉しい。

翌日。
私は大輝の車に揺られてとある場所に向かっていた。
そこは、私の両親が眠る場所。
私の両親は高校時代に交通事故で他界した。
なにもかも真っ暗になった私を救い出してくれたのは、今隣にいる大輝だった。
花を手向け、目を閉じ墓前に手を合わせるその姿はすっかり大人びて…そんな横顔を見るだけで私の心は満たされていく。
随分長く手を合わせてから、私に向き直った。
「よし」
「ん?何が?」
「なんでもねーよ。お前は終わったのか?」
「うん。次はどこ行くの?」
「んー。まあ行けば分かるって」
ニッと笑って歩き出す大輝の後ろを追い掛けた。

「桐皇!懐かしいね」
「あんま変わってねーな」
大輝に連れられて次にやって来たのは、2人が出会った桐皇学園。
私の手をひいて、校舎から少し離れた所に佇む大木の前で立ち止まる。
「お前、ここの下で大股広げて昼寝してたよな、女のくせに」
「…もう、その話は忘れてよ」
「忘れねーよ。お前と知り合った場所だからな」
「…大輝」
普段はふざけたり悪態ついたりするくせに、今日はなんだか妙に真面目な返しで調子が狂う。
「ここでいっぱい話したよね」
「おー。そういやお前、俺が整備士になるっつったら腹抱えて笑いやがったよな…無謀とか言いやがって」
「あはは!そんな事言った?」
「はぁ?忘れてんなよ!つかお前、なんで俺が整備士になったか…って知らねーか」
「え?車が好きだからじゃないの?」
「まぁ、それもあるけどよ…その…」
ちょっとだけ言葉を濁してから、大輝はこう言った。
『お前の親父とお袋みてーに、車のせいで死ぬヤツが居なくなるよーに』
それは凄くぶっきらぼうな態度で舌打ち混じりに吐き出された言葉だったけど、私の涙腺を決壊させるには十分過ぎる言葉だった。
「なっ!泣くんじゃねーよ!」
「だって!!」
「まだ話終わってねーぞ!」
「え?」
「さっき、お前の親に許し貰って来たからな…」
「何…」
「…名前、結婚すんぞ」
「へ」
「へ、じゃねーよ!お前はこれから『青峰』になんだよ!分かったかバァカ」
「ひ、酷いプロポーズ!!」
「うるせーよ、拒否権なしだかんな」
「っもう!拒否なんか、するわけないじゃんバカ!」

半年後。
私は青峰名前となった。
私の夫は自動車整備士。
バカで自己中でオッパイ星人な変態だけど、そんなこの人が、私は大好きだ。



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