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黒子



【ペットショップ店員】

『今日とても可愛い仔犬が来たので良かったら見に来てください』
黒子くんからメールが来たのはついさっき。
彼は私がよく行くペットショップの店員さんだ。
私はマンション住まいなのでペットが飼えない。
だからよくそのペットショップを訪れては、日々の疲れを癒していた。
そんな時声を掛けて来てくれた店員さんが黒子くん。
私が飼えないのを知ってるのに、行くと必ず可愛い仔犬や仔猫を抱かせてくれる。
契約の取れない客なんてただの邪魔でしかないのに。
だから他の店員さんは私に寄り付きもしない。
「こんにちは、苗字さん」
「こんにちは、黒子くん。また来ちゃいました」
「お待ちしていました。ほら、この仔ですよ」
「わわわ!か、可愛い!!!」
「今朝ここに来たばかりなんです」
「うわぁ、そうなの!小さい!」
「凄く人懐こくて愛嬌がいいんですよ」
「本当だね!」
手に消毒をして黒子くんの手から抱き上げると、すっぽりと私の胸に収まって尻尾を振っている。
潤んだ目で私を見上げて、撫でてとばかりに擦り寄って来た。
本当に可愛い。
「その仔、苗字さんに似ていると思いませんか?」
「え?私!?」
「はい。目の感じとか、人当たりがいい所とか」
「ええ!?そう!?犬に似てるってどうなんだろう」
「可愛い仔犬に似ているんですから、いいと思います」
「か、可愛い…か」
「僕もよく愛犬に似ていると言われるんです」
「黒子くんの愛犬?」
「はい。学生の頃から似ているって皆に言われて来ました…テツヤ2号って言います」
そう言って携帯の待ち受けを見せてくれた黒子くん。
た、確かに!!
目がそっくり!!
「本当だ!凄く似てる!!可愛いね」
「可愛い…ですか」
「え、あ…うん。可愛い」
「ありがとうございます」
「黒子くんに似てるから、テツヤ2号?」
「そういう事になりますね」
「ふふふ、呼びにくそう」
「そうですね。長い付き合いですし、もう慣れました」
「あ、そろそろこの仔戻さないとね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「この仔もきっとすぐ飼い主が見つかるんだろうな」
「そうですね。いい事なんですが、この仔が居なくなってしまうのはちょっと寂しいです」
「そうだよね。ペットショップの店員さんはいつも出会いと別れの繰り返しだもんね」
「…はい」
「黒子くん、今日もありがとう!またお邪魔します」
「はい。いつでもお待ちしています」
最後に振り返ってもう一度さっきの仔犬を見て、店を後にした。
うーん、似てるのかな?
自分じゃ分からないけど、人から言われるんだからなんとなくは似ているんだろう。
それよりも黒子くんちのテツヤ2号、そっくりだった。
可愛いなんて言っちゃったけど気を悪くしたかな?
そんな事を考えながら帰路についた。

数日後、またペットショップを訪れた。
お目当ては先日の仔犬。
端から確認したけど何処にも見当たらない。
もう飼い主が決まってしまったのだろうか。
聞こうとおもったのだけど今日は黒子くんはお休みらしい。
諦めて帰ろうと店を出た瞬間声を掛けられた。
「苗字さん」
「え?」
「ここです」
「!!く、黒子くん!!」
「驚かせてすみません」
「ううん、私こそごめん…こんにちは」
「こんにちは。今日は休みなんですけど、たまたま通り掛かったら苗字さんを見掛けたので」
「やっぱり休みだったんだね。あ、この前の仔犬って…」
「あ…飼い主、決まりました…昨日」
「そうなんだ」
急に項垂れた黒子くん。
失礼だけど、シュンと耳を擡げた仔犬みたいだ。
やっぱりお別れは寂しいものなんだろう。
私たちは近くの公園のベンチに座って話をした。
「飼い主決まって良かったけど、もう1回見たかったなぁ」
「僕も、もう少し世話がしたかったです」
「黒子くん、なんかいつもよりガッカリしてるね」
「はい。差をつけるのはよくないんですけど、今までの仔犬の中で一番可愛いと思っていましたから」
「そうなんだ…寂しいよね」
「…凄く寂しいです」
「だ、大丈夫!また可愛い仔犬が来るよ!」
「…そうじゃないんです」
「え?」
「僕は…苗字さんにそっくりだったあの仔を手放すのが、寂しかったんです」
「…!!」
「苗字さん」
「え、あ、はい!」
「あの仔のように離れてなんか行かないで、僕とずっと一緒に居て貰えませんか?」
「!?」


「苗字さん。僕は貴女が好きです」


寂しがり屋なペットショップの店員さんは、私の彼になりました。



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