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紫原



【パティシエ】


「まさか敦がパティシエになるなんてね…」
「幸せそうに試作品の味見ばっかしててよく言うよねー」
「繊細な事が嫌いだったのに!見てこれスゴイ!」
「えー。なんで名前ちんが自慢してんのさー」
「だって敦のケーキ大好きだもん」
「…あ、そ」
私の言葉にちょっとだけ頬を染めてまた黙々と作業に移る敦。
2メートルもある大男が、小さなケーキを1つ1つ丁寧に作っている姿がミスマッチ過ぎて可愛い。
敦が持てば普通のホールケーキもカットケーキに見えるって言っても大袈裟じゃないと思う。
出来上がったケーキを冷蔵室にしまって、敦の今日のお勤めは終了だ。

2人で一緒に帰宅。
敦の家に着いてすぐ、手土産を渡す。
「お疲れ様!はい、まいう棒」
「!何これ!!見た事ない」
「新作だよ。敦が喜ぶと思って頼み込んで貰って来ちゃった」
「名前ちん大好きぎゅうぅぅう」
「ぎゃ!苦しい!!!」
「一緒に食べよ」
「うん!分かったから離して苦しい」
「だめー。名前ちんはココ」
そう言ってラグの上に腰を下ろして、私を胡座を組んだ足の上に乗せた。
大きな敦にこうされると、なんだか私コドモみたいだ。
駄菓子の会社に勤めている私は、よくお菓子の新作や余った物をいただいてくる。
勿論そのほとんどは敦のお腹の中に納まるわけで…でもそれが私がこの会社に入社した一番の理由でもあったりするのだ。
敦が無邪気に喜ぶ顔が見たい。
既に包みを開けて幸せそうに食べるのをじっと見つめていると、それに気付いた敦の動きが止まった。
「ん?」
「名前ちん食べないの?」
「敦に全部あげるよ」
「味見はしたー?」
「ううん、してない」
「じゃ、味見ね」
「ん?」
ふっと影が射したかと思えば、食べカスのついた敦の唇が私の唇に触れた。
「…甘い」
「ん。甘いねー」
「フルーツケーキ味だって」
「んー。まいう棒は甘いのもいけるねー」
「敦のケーキのが断然美味しいけど」
「当たり前だし」
「ケーキ食べたいな」
「いーよ。とっておきのが冷蔵庫にあるよ」
「わ!食べようよ!」
「ん。俺ここで待ってるー」
「あれ、そんなまいう棒美味しかった?まいいや。私取ってくる!」
いつもなら敦が取り分けたりしてくれるんだけど、凄い勢いでまいう棒をひたすら口に運んでいて動く気は無いみたいだ。
私は1人でキッチンに向かった。
今日はどんなケーキかな?
ワクワクしながら冷蔵庫を開ける。
中段に白い箱を発見!これだ!
箱を取り出してカウンターに乗せると、向こう側でまいう棒を食べ続ける敦が見える。
ちょっと、口の中詰め込み過ぎ!
「敦、入れ過ぎだと思う」
「むぐぐ」
「敦ー。そんな焦んなくてもまいう棒は逃げないよ?」
呆れ半分、そう言いながら箱を開けて私は固まった。
「あ、敦…」
「ぶほっ」
言わんこっちゃない。
吹き出した。
いや、今はそれよりも。

『名前、結婚しよ』

プレートに書かれた文字を見てじわりと視界が滲んだ。
むせる敦の体に思いっきりタックルして押し倒す。
むせたのが理由じゃない顔の赤みを見て頬が上がる。
「敦!!」
「げほっ。もう。うざいなぁ……返事ないわけ?」
「そんなの勿論『はい』だよ!!敦大好き!!」


まいう棒バカ食いしてたのは緊張してたからだって、そんなの可愛い過ぎる。
甘くて可愛い私の彼氏はパティシエ。



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