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 魔が差してしまった。
 そうとしか言いようがない。こんな状況。そうとしか、到底説明できるものではない。
 オシリスレッド寮の十代の部屋に来て。お互いのデッキはこうした方がいい、ああした方がいい。普段のような何気ない会話をして。それから、戻るのが遅くなってしまったから、今日はこの部屋に泊まっていいかと聞いてみて。許可が出たから、ここで一晩過ごすことを決めて。なあ、ヨハン。そう明るく、けれどどこか、せつなげな声で呼ばれたから、十代を床に引き倒した。
 全部、魔が差しただけだ。だってそうだろう。男が男を組み敷くなんて、普通じゃあり得ない状況だ。ああでも、何か、体や頬が熱くて、心臓が高鳴って、息が乱れる。これも、魔が差した、せいか。いやそんなはずはない、だけど、そう言う理由をつけておかないと、何かが壊れそうで少し怖かった。
 十代は大きな瞳で、きょとん、と俺を見上げている。何をされているのかわかっていないのか。

「……なあ十代。この状況おかしくね?」
「自分で人を倒しておいて何言ってんだよ。おもい、どいてくれ」
「押し返せよ、力ずくで」
「この体勢じゃ力なんて入んねーよ!」

 十代はそう言って、諦め気味に溜息をついた。確かに力を入れにくい体勢ではあるが、手足をばたつかせて抵抗すれば、抜け出すのはたやすいだろう。それをしないのは、俺がすぐにどくと思っているからか。それとも、何もされやしないという、信頼の証なのか。どちらにせよ俺は、舐められてる。
 ……いいや、きっとそれがあるべき形だ。普通男におかしなことされるだなんて思わないだろうし。
 俺だって思わない、十代に何かするとか本当にあり得ない。だけど、不思議そうに俺を見上げる瞳に、薄く開かれた唇に、白い首筋に、どうしたって、何かが溢れそうになる。

「……十代って、手首とか腰とか、細いよな。肌、結構白いし。俺より背も低いし」
「ヨハン?」
「どっちかっつうと可愛い顔、してるし。なんていうか、おまえって」

 ……ああいや、落ち着け、俺。いくら思春期だからって親友相手にそんなことを言ってどうするんだ。
 頭を抱えたい気持ちになる。けれど床に縫いとめた十代の手を放すのが惜しくて、それもできない。

「……ヨハンだって色白いしほっせーじゃん」
「は?そりゃ白いのは、まぁ、人種と言うか」
「それにさ。ヨハンって、すごくきれいな、目ぇしてんじゃん。俺、好きだぜ。宝玉獣にも負けないくらい、きらきらしてて」

 十代はそう言って笑った。いつもの快活な、子供っぽい笑顔だった。
 ああだめだ、もうだめだ。俺は無意識のうちに、何か続きを紡ごうとする十代の唇を自分の唇で塞いでいた。思っていたより十代の唇はかさついていて、あたたかくて、やわらかかった。触れるだけの子供じみたキス。数秒触れ合って、ゆっくりと唇を離した後、妙な充足感に包まれていて。
 ぽかんとしている十代と視線が絡んだ直後、自分の顔が赤くなったのが嫌でもわかった。

「わ、悪い十代、俺、ちょっと、どうかして」
「……ヨハンって、俺のこと好きなのか?」

 弁明の暇すらくれなかった。直球ストレート、十代らしい、オブラートに包み隠すことを知らない言葉。

「それは、なんというか」
「俺は、好きだ。ヨハンのこと。すげえ、好き」
「……じゅうだ、」
「ヨハンも、俺のこと、好き…だよな。だって、今……えーと、アレ、したし」

 そこまで言っておいてキスはいえないのか。初心なのかなんなのかわからない。けれど十代はそこでようやく気恥ずかしそうに頬を染めて、口をつぐんでしまった。どうしようもない。……本当にどうしようもない。
 ……魔が差しただけなんだ。魔が差したから、お前を組み伏せちまっただけなのに。なんで俺、片思いが両思いになっちまってんの?ああ、これは夢か。

「十代」
「なんだよ」
「可愛い」
「……お前って意味わかんねー」

 わかんなくていいんだよ。そう言う代わりに、もう一度十代の口を塞いでやった。



―――――――――
すごく…やおいです…



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