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 ああ、こいつも痛みを感じるのか。遊戯とのデュエルの最中に青ざめた顔で腕を押さえた宿主を見て、当たり前のことを、今更ながらに認識した。
 宿主は、少し浮世離れしたところがある。常々そう思っていた。だから痛覚なんて持っていないんじゃないか、なんて、あり得もしないことを思った。彼が先刻平然としていたのは、マリクの力によるものだ。傷を負って、痛いと思わないわけがない。宿主は病気でもなんでもなく、五体満足なのだ。痛覚はある。怪我をすれば、血を流せば、痛いに決まっている。
 呻く彼を見下ろしながら、ようやくそれに気がついた。
 冷めた瞳で宿主を一瞥した後、マリクの瞳にはもう、彼がうつることはなかった。ただ、遊戯を真っ直ぐに見ていた。それが妙に気に入らない。放っておけば彼は死ぬだろう。王国で自分の弱さに気づいてしまった彼は、獏良を殺してまで勝利を得ようとすることなど、できるはずがない。このまま放っておいても、デュエルを続けても、獏良は死ぬ。
 自らがつけた傷に呻き、苦しみながら。
 ―――気に入らねぇ。
 それがマリクのやり口にだったか、宿主が死ぬと言う事実だったのかはよくわからない。ただ気がついたら体が先に動き、宿主の体を庇っていた。顔を上げた彼と目が合った、ようにも思う。

 結局、宿主は自分の行動が功を奏したのか、彼が死ぬことはなかった。青ざめた顔でベッドに横たわる彼。目を覚ます気配はなさそうだ。ベッドの縁に腰掛けて、衰弱しきった顔を見つめる。重さどころか存在そのものが希薄な自分が座ったところでベッドは音を立てず、よって宿主が気がつくこともなかった。
 頬に触れてみようと気まぐれに手を伸ばしてみるが、その指は彼の体をすり抜けるばかりで、触れることはかなわない。わかっていたことだ。確認するまでもない。そう思って、手を引っ込める。彼の体を借りなければ、自分は実体を持って行動を取ることすらできない。何かに触れることも、食べることも、外の世界では何一つかなわない。
 だが叶ったとしても、それは自分ではなく、宿主である彼が触れ、食べ、感じたものだ。ナイフを突き立てた腕の痛みも、流れ出た血も、彼のものだ。あの時自分がそう痛みを感じなかったのは、この体が自分のものではないからなのか。
 宿主もこれくらい痛がらない。どこかで、そう思っていたのだ。自分と彼が感じるものは同じだとばかり思っていた。
 自分とこの男は違う。これもやはり、当たり前のことだった。
 全部今更だ。


「……チッ」


 目を閉じれば、その姿が霞のように消えていく。これ以上苦しそうな彼の顔を見ているのは、なんとなく、腹が立つ。傷つけたのは他の誰でもない自分自身であるはずが、何かにこれを奪われた気分になった。







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