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「うわー、降ってるねぇ」
『降ってるな』

 休日の補講を終えた昼下がり。
 ぎりぎり屋根のある玄関先に呆然と立ち尽くしながら、遊戯たちはぽつりと漏らした。
 その声をも掻き消してしまいそうなほど、ざあざあと勢いよく降りしきる雨。天気予報では一日晴れだったはずだ。聞いてないよ、と遊戯はがっくり肩を落とす。念のため折り畳み傘はいつも持ち歩いているが、この雨の勢いでは、小さな折り畳み傘では防ぎ切れそうになかった。
 少しくらいはしょうがないか。遊戯は溜息混じりに吐き出して、鞄の中から傘を引っ張り出した。
 傘を差して一歩屋根から出てみると、雨粒は勢いよく傘を打ち付ける。ばたばたとどこかくぐもった音がやけに大きく響いて聞こえた。

「う、ほんとにすごい雨……」
『まるで台風だぜ。相棒、早く帰らないと、風邪ひいちまうぞ』
「そうだね。……あ、待って、もうひとりのボク」

 ふわふわと幽霊のように漂う片割れを見上げると、首を傾げられた。遊戯は少し傘をずらして、漂う彼を傘の下にいれた。傘は小さく、相合傘には向いていない。少し肩や腕が冷たかったが、そんなことは気にせず、傘をずらして差し続ける。満足して、じゃあ行こうか、と笑顔を向けると、片割れはぽかんとして遊戯を見つめていた。

『あ、相棒?何してるんだ』
「何って……ボクだけ差してちゃ悪いから、相合傘」
『そういうことを聞いてるんじゃない。俺は濡れないんだ、気にすることはない。それより相棒が濡れてるじゃないか。俺のことは構うな』

 確かに彼は、遊戯の体を借りない限り、実体を持つことはできない。物や人に触ることはできず、当然雨に濡れることもない。雨はすべて彼の体を突き抜けて、地面に水溜りをつくっていく。対する遊戯はれっきとした体を持っていて、雨に当たれば濡れてしまう。
 いくら今日が暖かいとは言え、雨に濡れて帰れば、風邪をひいてしまうかもしれない。彼の心配は、遊戯にも十分伝わってきた。けれど相合傘をやめるつもりはない。遊戯はまだ呆然としている片割れを見上げて微笑んで見せた。

「…君の体はここにないかもしれない。でも、ちゃんと一緒に居るんだよ?だから、こうしたいと思ったんだ。ちゃんと家に帰ったらあったまるからさ。……ダメかな?」
『………ちょっとそれはずるいぜ、相棒』
「そんなことないよ。君が大切なだけだよ」
『そういうのがずるいって言うんだ。ほら、早く帰るぞ』

 背中をぐいぐいと押されて急かされる。遊戯は笑って、ばしゃばしゃと水を跳ねさせ
ながら走った。その隣を、今まで浮き漂っていたはずの片割れが走っている。本当に一緒に相合傘をして、同じように走っているようで、自然と笑みがこぼれてきた。彼はここにいる。紛れもなく自分の隣で、生きているのだ。
 いつか同じように水溜りを蹴り上げて、雨の中を走って、笑えたら。
 叶わない夢と知りながらも願わずには居られない。吹き付けてくる雨が顔を濡らして頬を伝った。すこしだけ口の中に入ってきたそれの塩辛さに、なぜか笑いがこみ上げてくる。






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