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「吹雪、今日は自分の部屋に戻るのか?」

 ―――亮とのデュエルは楽しいと、吹雪は常日頃から思っている。今日もあまりにデュエルが楽しいせいで、時間をすっかり忘れ、夜も遅くまでデュエルに熱中してしまっていた。ほとんどの生徒が眠りについているであろう中、デュエルのために訪れていたこの亮の部屋だけが、煌々と明かりがつけられている。

 あまり遅くまで滞在してしまっても迷惑だろう。そう思い、吹雪がデュエルを切り上げ、立ち上がった時だった。吹雪を引き止めたのは、亮の控えめな声。目を伏せじっと床を見る彼は、あのカイザーとうたわれる人物なのかとつい疑いたくなるような、少し情けない表情をしていた。

 吹雪は小首をかしげ、再び床にぺたりと座り込む。


「そりゃ、夜も遅いからね。それがどうかしたのかい?」
「いや……こういう時、俺の部屋でそのまま寝るのがいつもだっただろう?だから、少し……」
「ふうん?」

 確かに彼の言うとおり、今日のように遅くなることは始めてではない。そう言うときは吹雪が嫌な顔をする亮を言い負かして、彼の部屋で眠るのだ。一緒のベッドに強引に潜り込むこともあれば、ソファを借りて眠ることもあった。夕方などに終わった時はまだしも、こんなに遅くまでデュエルをしていたというのに、吹雪が亮の部屋で一夜を明かさない―――と言うのは、珍しいことだった。

「……えっと、それだけ?」
「………ああ」
「じゃあ、部屋戻っていい?」
「い、いや、……」

 再び首をかしげて見せると、亮は顔を上げて吹雪を見た。ただ視線が合うと、亮はばつが悪そうに目をそらして、視線をあちこちに泳がせてしまう。亮?と声をかけてみても、彼はうんともすんとも言わなかった。そして吹雪は、思い至る。


 素直ではなく、プライドも高い彼だから。きっと、素直にここに居てくれとも言えないのだろう。それは確信だった。言いづらいからと黙り込んでいるのだろうが、彼の態度を見ていればなんとなく察せられる。さっき言いよどんだのも、そういうことだ。長い付き合いではないが、彼のことはきっと、まだ見ぬ彼の弟よりも理解しているだろうと自負している。
 彼はきっと、こんな表情を弟に見せたがらないだろうから。そう言う意味では、自分の方が彼を知っているだろう。
 吹雪は脱線しかけた思考をまとめつつ、彼を怒らせないように、言葉を選ぶ。

「ボクが帰ると、寂しいかい?」
「……誰がそんなことを言った」
「顔にそう書いてあるんだよ。……亮は素直じゃないね」

 笑ってぽんぽんと頭を叩くと、亮は顔を上げて、じっと吹雪を見上げる。その視線は痛いほどまっすぐだ。

「一緒に寝てあげるよ、しょうがないから」
「……嫌なら戻ればいいだろう」
「嫌なんて言ってないじゃないか。全く」

 亮は本当に素直じゃない。そう囁きながら抱きしめてやると、うるさいと胸を押し返された。ただ本気ではないのか、吹雪の拘束が解けるようなことはない。ああかわいい、さすがはボクの亮だ。誰がお前のものだ、馬鹿。交わされるやり取りは、いつもと同じ、冗談の入り混じったものだ。
 そんな中でふと、吹雪の声が真剣みを帯びる。

「……亮はボクがいないとダメだね。こんな亮をみんなが知ったら、どう思うやら」
「うるさい。……茶化すな」
「わかってるって。……わかってるよ」

 孤高のデュエリスト、カイザー亮。慕われてはいるが友人はそう多くないし、その数少ない友人にさえ本心を漏らさないことだってある。長期休暇になっても家族に顔は見せず、ひたすらデュエルに明け暮れる。彼にとってデュエルは全てだ。彼の全てであるデュエルに対して、彼は甘えを許さない。いつも一人で前を歩く。

 ただそんな亮も人間だ、完璧ではない。こうしてふとした時、寂しげな顔を見せる。―――自分だけに。彼が頼るのは、弱さを見せるのは、自分だけだ。きっと彼にとって、天上院吹雪という存在はあらゆる意味でなくてはならないのだろう。
 まるで安心毛布だ、と苦笑した。


 ―――ああ、でも。人のことは言えない、か。


 亮を抱きしめる腕に力を込める。伝わってくる体温は自分よりも低い。いつもの亮の体温だ。こうしていると心が落ち着く。そうして安堵する自分を眺めていた自分が、ふっと口の端で笑った気がした。


(亮がいないとダメなのは、ボクの方だ)






―――――――
だめな吹雪さん


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