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(ダークシグナー遊星)





「ジャック、」

 愛しげに名前が紡がれる。間近に迫った顔には微笑すら浮かんでいない。けれども声だけはひどくやわらかく、いとしげに、その名前を呼ぶ。ジャック。もう一度声が呼んだ。吐息がゆるやかに頬を撫でる。冷たい指先がそれに重なった。

「……どうしてだ、ジャック」

 静かだった声に力がこもった。柔らかな声音に憎しみのようなものが滲み、喉の奥から引き絞られるように漏れてくる。まぎれもない、怨嗟。頬を滑る指にも力がこもる。やがて指は頬から顎のラインを伝い、ゆっくりと首筋へ落ちる。首を絞められるのではないかと、体がこわばった。それを見逃さなかったのだろう、口元がかすかに緩むのが見えた。

「俺が、怖いか、ジャック。殺されや、しないかと?」

 かくりと首をかしげ、抑揚の無い声で問われる。何か答えるべきか、ジャックが口を開こうとすると、それを許さないとでも言うかのように、唇に指が押し当てられた。どこか無邪気さを感じさせる仕草に戸惑いを覚える。口元にたたえられた薄い笑みのせいか、今はただただ不気味にしか思えない。
 唇から離された指は、そのままジャックの首筋へ滑る。気がつけば、両の手がジャックの首にかかっていた。

「死にたくない?死ぬのが怖い?……ああ、その気持ちはよくわかる。俺も、怖かった」

 怖かったんだ、と震える声で繰り返される。口元の笑みとは不釣合いな、泣きそうな声。

「……どうしてお前は、生きてるんだろうな。どうして、俺は……」

 漆黒に塗りつぶされた瞳が、ジャックを真っ直ぐに見上げる。視線が交差し、黒の瞳が細められた。

「ジャック、デュエルをしよう。ライディングデュエル、を。……もちろん、闇のデュエルだ」
「……お前は俺に、死んでほしいのか?」
「さあ。ただお前とデュエルがしたい。構わないだろう?」

 死者にそれくらいの礼は尽くしてくれ。
 どこか自虐気味に笑いながら囁かれる。これがこんな状況でないのなら、きっと喜んでその申し出を受けていただろう。闇のデュエルなどではなく、真っ向から心をぶつけ合ういつものデュエルだったなら。心躍る戦いになっていたに違いない。できることならば、こんな形で再戦を果たしたくはなかった。
 もっと別の形で、楽しみたいと思っていた。ただその機会を失わせたのは紛れもなく自分なのだろう。だからこそ彼は、こうして闇に身を沈めた。

「……俺のために傷ついてくれるだろう?ジャック」
「……いいだろう。それでお前が戻ってくると言うのなら、その痛み、甘んじて受けてやる」

 負けてはならない。負けてしまえば、もう二度と、彼は戻ってこない。禍々しい赤色をしたマーカーを指でなぞり、目を伏せる。直後茶番はここまでだ、とあっさり手を振り払われ、ジャケットが目の前で翻った。結局ただの一度も、首は絞められないままに。

「始めようジャック。闇のデュエルを」
「………ああ。ああ、遊星……」

 きっとこの手で、おまえを。
 人知れず、静かに誓いを立てる。







配布元:破砕



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ジャ遊習作。





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