紀田正臣君は拗ねたように買ってきたオレンジジュースをちゅうちゅう吸い始めた。
あ、紀田正臣君にも聞いておこうかな。
「折原さんって知ってる?」
「……知ってますけど、関わらない方がいいっすよ」
「なんで?」
「それは……その…」
言い澱む(よどむ)紀田正臣君。あら、もしかして聞いちゃいけなかったかな…?
「あーいや、無理して言わなくても大丈夫だよ!本人に直接会って、」
「それはダメだ!!」
「え…?」
「あっ、すいません…。多分、というか絶対後悔しますよ。俺は勧めない」
「ふうん…?紀田正臣君に何かあったんだ?」
紀田正臣君は一瞬考え込むような顔をして頷いた。そして、彼はあまり言いたくなさそうな表情で「実は…」と口を開いた。
「俺の彼女は、折原の信者だったんです」
「信者?」
「あーなんつうか、以前のあんたみたいなもんでした」
「……私も折原の信者だった?」
そう尋ねればコクりと紀田正臣君は頷いた。…へえ、折原の信者、ねえ。
「それで、俺の彼女は……酷い目に合わされた。現にあんたも、そうじゃないんすか」
「私、は…」
「その眼帯の下、見せてください」
「っ……」
じっと紀田正臣君に見つめられ、仕方なく眼帯をゆっくり取る。現れた光景に、紀田正臣君が息を飲んだ。
「何も、ない…。怪我してないじゃないっすか!」
「……そうだよ。怪我してないの」
目を開けると、彼の顔が安堵から疑問に変わった。私の瞳の色が左右非対称になっていたからだ。
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