「私ね、いざやさんと出会う前は悲惨だったの。
未完成で、人間の成り損ない。でもね、いざやさんは愛してくれるんだよ」
「あんな奴なんかに愛してもらわなくても―――」
「違うよ、紀田くん」
鳩が豆大福……豆鉄砲だ、を食らったような表情をしている。
思い出した、この金髪後輩くんは紀田正臣、竜ヶ峰帝人くんの幼なじみ。
「いざやさんは、きっと誰も愛せないし愛されない人だから。あとさ、」
いざやさんのこと馬鹿にしてると殺すよ?
距離を詰めて、紀田くんの前に立って言い放った。クルリと方向転換して教室を出る。
「ふん、ヘタレのくせに」
調子に乗るなよ、クソガキが。
「……くそっ!」
何も言えなかった。個人の事情だからそんなもん無視しておけばいい。
しかし、あの折原臨也――自分も関わって痛い目に遭った人物――が関わってくるとなれば事情が変わる。
(あんな野郎と関わってたら命がいくつあっても足りねえよ!)
そしてその純粋な悪を崇拝していたのが先ほどの彼女だ。正臣はあることに気づき自嘲した。
・・・
(ああ、あの人はアイツに似ているんだ)
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