千景くん家のお風呂はユニットバスだから狭い。ふたりで入ったらぎゅうぎゅうだろうねえ。
タマちゃんは、そんな不埒なことしませんけどもー!恥ずかしいし、あんまし胸無いから。
「千景くん上がりましたー」
「あいあーい、って髪乾かさずに寝るな。こっち来い」
「んがががが!」
「ていうか、いい加減敬語やめてくれよー」
「やですーこれはアイデンティティーなんですー」
千景くんに髪をドライヤーで、ぶわんぶわん乾かしてもらう。なんか懐かしい感じ。くすぐったくて、温かくて。
「ごめんタマ!なんか痛かったか?もしかして熱かった?」
「え?熱くないし、痛くないです」
「よかった……じゃあ、なんで泣いてるんだよ」
「あ……ほんとだ」
ぺたぺた自分の顔を触ったら、水滴がついていたことと視界が涙で歪んでいたことに気づく。
それを認識しただけなのに、わたしはぼたぼたと涙を零す。
「っく、ふぅ……!ひっぐ」
「よしよし」
「千景くん゙……!ど、して涙が……っ」
「……今はなにも考えるな」
背中を優しく擦ってもらうと、さらに涙が溢れてくる。優しい千景くんの愛に申し訳なくなる。
わたしはあの日、感情やあの人への想いを亡くしたと思っていた。でも、それは違って日に日に強くなっていく。
大好きで大好きで、でも一緒には居られなくて。辛くて仕方がない、このもどかしい気持ちを千景君は汲み取ってくれている。
「ごめんなさい……」
誰に宛てたか分からない謝罪は、空虚だった。
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