青年は息を潜めながら、ある者から逃げ回っていた。逃げ切らなければアイツに喰いちぎられてしまう、と。
何かの強迫観念に追い込まれていた青年は、とうとう行き止まりに着いてしまった。ああ、俺はアイツによって殺られるのだ。
彼は諦めたように振り返ると、黒いフードをかぶった人物が立っていた。この人物こそ、先ほどから青年を追っていた者だ。
「みーつけた。ねえ、仲間を売ってさ……きもちよかった?」
「ち、違え!!俺はアイツに脅されていて…」
このやり取りも何度目だろうか。彼は冷や汗が背中に垂れるのを感じながら、弁解していた。
「だから?それがどうしたっていうの。わたしには関係ないから」
「……折原臨也」
「っ!」
ひくり、とフードの人物の肩が反応した。青年はしめたと思い、畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「お前、前は折原の女だったんだろ?いや女じゃねーか!折原の、狗(いぬ)だったな」
「………………」
「写真見てびっくりしたぜ?リーダーと一緒にいる彼女が、あの折原や平和島とつるんでんだもんなあ」
「………………」
「で、折原とどうだった?それこそ“きもちいい”か?おい、何とか言えよ」
青年がべらべら喋っている間、口を閉ざして項垂れるように立つフードの少女。彼はその姿を見て、所詮オンナなんだと舐めていた。
「なぁ、リーダーじゃなくて俺に、」 「言いたいことはそれだけ?」
肩に手を置いた青年は、間近に見た少女の目に言葉を失った。
「ねえ、言いたいことはそれだけなの?」
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