お芝居なんだよ、シナリオがあって私たちはそれを演じているの。受け売りの言葉を彼は頷いて受け止めてみせる。綺麗な微笑みの中に嘲笑を含めていたかもしれないけど。それも演技の一つだと呟いたのは果たしていつの事であったか。


真っ白な皿の端に当たったフォークがかつん、と音を立てて、思わず顔をしかめた。隣に座る颯斗は何食わぬ顔で紅茶を飲みながら本を読んでいる。本の題名はジュリアス・シーザー、私の好きな話だ。お前もか、ブルータス。死ぬしかないぞ、シーザー!彼の細長い指が本のページを一枚捲るのを見届けてからケーキに戻した。宮地君が教えてくれたお店のケーキはとても美味しいが、そういえば彼はケーキ選びに非常に悩んでいた。誰のために選んでいたのだろうという疑問が浮かんで、すぐに消える。答えは至極簡単で、この時間を埋めてくれるほどではなかった。スポンジを上手に一口大に切り分けられなくて、バランスが悪くなったそれに苛立つ。ぐらぐらと今にも崩れそうなそれは何かを思わせる。例えば、私たちの関係。或いはこの空間。あるいは、あるいは…。思わず出そうになった舌打ちを慌てて飲み込んで、ケーキから目線を上げると颯斗と目があった。(なんでもないよ、という言葉は恐らく伝わっていない)


時間だとか直感だとか、様々な名前を持つ誰かさんたちは、時として私たちのちっぽけな手に余るものを突きつける。そうして私たちを置いてけぼりにする。その何かとは、彼の胸を覆い、私と彼の間に平然と横たわっては、私を先に進めなくする塊の綻びだったり。同時に彼もきっと同じようなものを受け取っていて、考えあぐねているのだろう。次に吐き出す台詞の選択を誤れば簡単に終わってしまう物語。私たちはいつだって、選択の連続の中で足掻かねばならない。気がつくと皿には苺だけが残っていて、フォークで刺そうとすると皿の中を転がった。


私たちは似ていると、そんな在り来たりな台詞を吐いたのは誰であったか。突きつけられた(もしくは自ら掴んだ)ものを持て余しているのは誰であるか。2人の間に転がっているものを取り除いた時を恐れて、そしてその時を強く待ち望んでいるのは。ずぶり、と苺にフォークを刺して口へ運ぶ。皿はすっかり綺麗になって、私はわざと音を立ててフォークを置いた。続いてパタンと、本を閉じる音が聞こえる。賽は投げられた、いいや、最初から投げられていたんだ。私たちはもうずっと、ルビコンを挟んで立っていたのだ。その事実をようやく認めることにした私が次に知ったのは、この舞台にはちょうど、私と彼の2人しかいないということ。

「颯斗、」


たとえば運命という名の脚本があるとして

怯えながら描いたシナリオも戯言も葬り去ってしまえよ。私たちに恐れるものは無いのだから。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -