結局、青空くんと犬飼くんとの天体観測には遅刻せずに済んだ。星を見ながら意識を飛ばしそうになった私を犬飼くんが揺さぶったり、青空くんが私の頬を抓ったりしつつも何とか課題は無事に終わり、持つべきものは頼れる友人だと実感した。来年度の目標は「頼れる人になる」にしよう。

「あ、れ」
課題も提出したし今日は早く寮に帰って寝よう、と鞄に荷物を詰め込んでいると、見慣れないノートがあることに気がついた。字体と、その他いろいろな要素を含めて推測するに、これは青空くんのノートである。ノートを借りた記憶はないけれど。届けた方が良いのかな、と少し悩んでから、青空くんに指示を仰ごうとメールをすると、あまり待たない内に携帯のメール着信音が鳴った。申し訳ないけれど、そのノートを使って予習をしたいから生徒会室まで届けて欲しい、といった内容だ。了解、と返事を打って教室を出る。それにしても、予習をしたいという言葉に感動を覚えるなあ。

生徒会室に向かう途中、陽日先生が「身長が縮んだ!1ミリくらい!」と嘆いていたので、適当に励ましたら元気が出たのか、お礼にチョコレートを貰った。もう身長が縮み始めたんだろうか。大人って大変だ。

生徒会役員でもない私は、生徒会室には入ったことがない。踏み入ったことのない、しかも自分の知らない人たちがその向こうで仕事をしているであろう扉は何だか大きく感じた。青空くんや月子ちゃんは友人だけど、生徒会としての彼等をあまり知らない。どうしたものかと扉の前で立ちすくんでいると、「おい」と何処かで聞き覚えのある声が降ってきた。
「どうかしたのか」
振り返ると男子生徒が怪訝そうな顔で立っていた。廊下の真ん中で突っ立っていたら邪魔ですよね、すみません。とりあえず、廊下の端に移動してみると彼の眉間の皺が更に深くなった。ああ、もう撤退したい。初対面の人には人見知りしてしまうタイプなのだ。
「生徒会に用事があるのか」
「あ、はい、青空くんに」
生徒会の方なんですか、と訊いたら「え、」と驚かれた後に「俺はこの学園の生徒会長だ」と言われた。そういえば、よくこんな雰囲気の人が式典とかで挨拶をしていた気がする。人の顔を覚えるのは苦手だから何となく、だけど。それに式典等は大抵は睡魔と戦って(そして敗北して)いるのだ。
「はい、じゃあ、そんな深晴に問題。俺の名前を言えるかな?」
答えられなきゃ颯斗を呼んでやらんぞ、と意地の悪い目で笑う。生徒会長って暇なんだろうか、とか、どうして私の名前を知っているのか、と疑問が浮かんだが、青空くんにノートを届けるという使命を負っているので頭をフル稼働させる。確か変わった名字だったような。
「初めの文字は"し"ですか」
「おう」
「最後は"う"ですか」
「…それは、"会長"の"う"だな」
し、しら、と何度か呟いてようやく「不知火会長!」と答えを出すと彼は笑って私の頭をぐりぐりと撫でた。どうやら正解のようだ。
「改めて、生徒会長の不知火一樹だ」
よろしくな、深晴と更に力を込めて頭を撫でる。だからどうして私の名前を知っているのか。不審者かと一瞬思ったけど、良い人そうだから違うだろう。よろしくお願いします、と返事をした。ところで会長、青空くんを呼んで下さいませんか。



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