シードルと女主


※未来




「しゃいにぃ、好きだよー」
「う、うん、わたしも好き…きゃあっ」

シードルはお酒に弱かったんだ…。
卒業から6年たった。同窓会は定期的に行われていたのだけど、今回からは成人組での集まりも設けることになった。メンバーはカシス、レモン、ブルーベリー、ガナッシュ、アランシア、キルシュ、わたし、それからシードルで。ガナッシュは忙しいみたいで、最初の方だけ顔を出してすぐに帰ってしまった。ブルーベリーはどうしても外せない用事があるようで欠席。聞くところによるとウォーターピープルが100年に一度行うお祭りがあるのだとか。ということは、常識人のポジションは必然的にシードルに移ることになる。

「ちょっと、シャイニーちゃんと聞いてるー?だからね、僕は思うんですよ。芸術とは情熱なのだよ、ビッグバン的なぁー、」

…はずだった。
さっきから子供みたいにわたしに抱きついて、支離滅裂なことを熱心に語っている彼こそ、このメンバーの冷却材のはずだった。ちなみにわたしはどちらかというとはしゃいでる方が好きですごめんねシードル。

「お前ら職場恋愛だろー。いいんですかー?」
「あほか」

かなり酔いが回ってきたカシスがへらへら笑いながら言って、レモンにはたかれた。そんなレモンも顔が赤いし、何となく目が座ってる気がする。

「あぁなたぁーっおぉーっていぃいずもざきぃぃー!」
キルシュはずっとマイクを離さない。微妙に選曲が古い。
「サビは60点〜」
アランシアは人間カラオケ採点機の役割に徹していた。タンバリンとマラカスを両手で巧みに操っている。

「うぅ…誰も助けてくれない…」
「そう、そうなんだよシャイニー!確固たる自我なんて存在しないんだよ。宇宙が毎日少しずつ広がっているように、」

「うわーんシードルが怖いー」
「つまり恐怖の感情こそが」
「やめてー」

泣き上戸とか笑い上戸とか、そっちの方がましだったかもしれない。この絡み方はすごく迷惑だ。
シードルとわたしはお酒を飲むのはこの場が初めてだった。思い返してみると、彼はカシスという不良の典型みたいな男と悪友だった。それでも成人するまで律儀にお酒には手を出さなかったことを考えると、もしかしたら薄々気づいていたのではないか、というのは考えすぎかなあ。
「カシスのばかぁ」
わたしはカシスが割と嫌いだ。
「おいばかご指名入ったよ」
「はいはい俺がばかですよー。どうしたのシャイニーちゃん」
「このシードルどうにかして」
「いいじゃん付き合ってんだろ」
「関係ないもん。それよりカシス本当はシードルがこうなるの知ってたんじゃないの?」
「…さぁね。とりあえず「寄るなカシス」

ぼひゅん。
多分そんな音がして、カシスは吹っ飛んだ。まわりに黄色い花びらが散っている。

「い、イエローローズ…だと…?!」
部屋の隅に転がったカシスが呻く。とんでもない暴挙に出た張本人は、にこにこしながら言った。

「ブラックローズか迷ったんだけど、今日のラッキーカラー黄色だったから」
「怖い!このシードル怖い!!」
よく見たら目が笑っていなかった。普段はやきもちを妬かれたというのなら喜んでしまうのだけど、これでは困る。

「カシスだから良かったものの…」
「せんせーシャイニーさんがとっても失礼なことを考えてまーす」
「残念だけどわたしが先生なのカシスくん」
「世も末だな」
これだけ喋れれば大丈夫だろう。カシスを筆頭に、元マドレーヌクラスの面々は驚くほど丈夫だ。

「ちょっとぉ全然聞いてないでしょうきみぃ」忘れてた。放っておいたからか、眉間に皺をよせて見るからに怒っている。
どうしよう。いくら丈夫とはいえ属性的に弱者のカシスにこの仕打ちだ。普段ならレッドローズで止めているから、今彼の理性が正常に機能していないことが分かる。つまりこの状況は非常にまずい。属性が同じだからダメージとしてはほとんど皆無だけど、それでも当たったら痛い。痛いのは嫌だ。

「あ、あの、シードル、ごめんね。ちゃんと聞くから、ねっ」
「いーえーろー」
「やだーっ」

思わずぎゅっと目を閉じて叫んだ。しかし何も起こらなかった。おかしい。ぽん、と何かがはじける音がしたのに。

「シャイニーかーわいい」
「へ…?」

違和感を感じて頭に手をやるとバラの王冠が。なんだあと呟いたら、シードルはきゃっきゃと悪戯が成功したことを喜んでいた。喜んだまま。

「…くー」
「寝ちゃった…」

急に重くなり苦しかったのでそっと床に下ろした。シードルは横になってむにゃむにゃ言っている。幸せそうな寝顔が少しだけ、いや結構憎らしい。

「もうシードルとはお酒飲まない…!というより絶対飲ませない!」
「賢明ね〜」

拳を握りしめ、固く決意した。そこで初めて隣にアランシアがいたことに気づく。「アランシアー。見てたんなら助けてよー」
「ごめんね〜。キルシュがあんまり下手なものだからつい〜、」
「つい?」
「熱血指導を〜?」

どうして疑問型なのかとキルシュの方を見やると。

「ちょっと!キルシュが伸びてる!なにやったのアランシ」

ちゅっ

「飴とムチ〜」

頬に柔らかい感触、呆然としたわたしにアランシアはうふふと微笑んで、カシスとレモンに同じことをした。シードルは起こしたらまずいと思ったのか、そっと。

「今度はアランシア…」
「キス魔か」
「ラッキーだな」
「黙れ」

ぱしん。
今日のレモンはよくはたく。



こんにちは、アナザー



「今回の反省点は、ペシュをつれてこなかったことね」
ぺちぺち
「え?何で?」
ぱしこーん
「回復役がいないと駄目じゃない」
「俺満身創痍…」


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -