男主とキャンディ


夜の談話室。それぞれ思い思いの時間を過ごす生徒のなかに、見知った顔を見つけた。
「なーにしてんの」
本当は分かっていたけれど形だけ装う。だって俺は鈍いトモダチ。
「見てわかんないの?てるてるぼうず!」
「動詞が抜けてる」
「つくってんの!」
キャンディはちょっとむっとした顔で返した。からかうのはほどほどに。天気予報では明日は晴ときどき曇り、降水確率30パー。就寝時間まで1時間をきった今、しとしと雨が降っている。微妙なところだが晴れるに越したことはない。何故なら明日は遠足だからだ。ウィルオウィスプの特にマドレーヌクラスは何かと理由をつけて遠出をしたがる。確か今回の目的はは自然界における精霊と魔力の稼働率の推移の調査とかなんとか、だっただろうか。何にせよマドレーヌクラスが弁当を持って山で調査だ。楽しいハイキングになることは明らかだ。現に昨日のホームルームは班決め、今日の放課後は30ブラーまでと決められたおやつを買いに町まで出かけたのだから。
「俺キャンディと同じ班が良かったなー。レポート楽じゃん」
「いくら班ごとにって言ったって、みんな平等に分担するんだからね。ザクロんとこは誰いたっけ」
「セサミとレモンとー、アリュメット」
「なかなか珍しい組合せじゃない?」
「レポートの高評価は期待出来そうにないよな」
「失礼だよ!うん、でも、そうかも」
「キャンディのとこは?」
これも本当は知ってる。チェック済み。こいつがせっせとてるてるぼうずなんて普段は縁がないものを作っている理由。
「えっとねー、ペシュと、ガナッシュと、ショコラだよ」
さりげなく言ったつもりだろうがキャンディの背後には花が飛んでいた。これは間違いなく恋する女の子オーラだ。はいはい分かってましたよ分かってましたがきついものがあるのですよ。
大体どこの班も男女比1:1になるようくじ引きで決められたメンバー。自分以外が愛の大使とマッドマンと好きな男だったら、そりゃあ遠足も楽しみになるだろうし、晴れることも願うだろう。
「ショコラは微妙だけどペシュとガナッシュは強いよな」
「2人とも真面目だからね」
2人なんて、こいつの頭にいるのはただ1人なのに。
そんな会話をしなががらも手を休めずに、キャンディは3つ目のてるてるぼうずを作っていた。丁寧にティッシュを丸めて、白い布で包む。布はわざわざ店でいらない切れ端を貰ってきたのだと、聞いてもいないのに教えてくれた。
「おまえ、作りすぎ」
「えー、だって晴れて欲しいじゃない?遠足楽しみだし、あっ、レポート作成のためにもさ!」
「楽しみだよなー遠足」
適当に合わせてやれば、キャンディそれはそれは嬉しそうに、それこそ花が開くように微笑んだ。
これ以上の会話は自殺行為かもしれない。ここまで耐えた自分は流石というか馬鹿というか、とんだマゾである。
でも一生懸命なこいつが好きだから、俺はついこんなことをしてしまうのだ。

「はい、できた」
「うわ、無駄に上手い可愛い」
「なんだそれは」
何となく作ってしまった自分の手の中のそれを差し出した。
晴れにしてくれるというなら、して貰おうじゃないか。それでキャンディの笑顔が見れるなら、なんて、究極に自虐的。けれども万が一雨が降ったりして、こいつが悲しむのはいただけない。
「おいこらしっかり働けよ坊主」
「偉そう!ちゃんとお願いしてよね!」
「はいはい」
仕方なく二礼二拍。
お前には恋する青少年約二名分の想いが籠もってるんだからな。顔の前で手を合わせて、俺の自己犠牲の精神の表れのような、ぶら下がったひとがたをじっと見つめた。思わずため息をこぼしたら、諸悪の根元に幸せが逃げると笑われた。俺はそこまでできた人間ではないので彼女が持っている作りかけを奪ってちょびひげを付け足してやった。


恋とは厄介なものなのですね


怒るかと思ったらそのまま落書き合戦に突入してしまい、最終的に七体の可哀想なてるてるぼうずが出来上がった。それでも翌日誰も泣かずに済んだのは、彼らが役目を果たしてくれたからかもしれない。





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