◯◯系男子シリーズ | ナノ

抱きついていたい系男子
黄瀬涼太×黄瀬なまえ


そろそろ夕飯の用意をしなければならないと思い、わたしに抱きついて寝ていた涼太を起こさないよう、ゆっくり涼太から離れようと試みた。しかしこの旦那様、離れようとすればするほどに抱きつく力が強くなる。本音はいつまでもこうしてもらっていたいものだが、なにぶんわたしのお腹が空腹の限界を訴えている。甘やかしたい気持ちをぐっとこらえ、わたしは強引に涼太を引き剥がした。


「ぐふっ、…なにするんスか。せっかく気持ちよく寝てたのに」
「…ごめん涼太。気持ちよく寝ていてもらいたいのは山々なんだけど、わたしのお腹が限界」
「ふうん。なら一緒に作ろっか?一石二鳥じゃないスか!お腹も満たされるし」
「…うん。役に立ってくれるなら」


…とは言ったものの、やっぱり涼太は手伝う気がないらしい。まな板でにんじんやら大根やらを切るわたしをよそに、後ろからわたしの腰に腕を回し、首もとからわたしの手元をじっと見つめる涼太。身長が160pのわたしに、189pもある涼太が抱きつくなんて、涼太だって大変なはずなのに。わたしが料理をするときは、決まってわたしの背中にぴっとりくっつく。“さみしい、かまって”というような心の声まで聞こえてきそうである。

けれど背中にある体温に、安心している自分もいる。逆にこれがないと落ち着かない。やりづらいことはこの上ないが、離してほしい理由もない。包丁とか使う時はさすがに危ないなぁと思うけれど、離れようとしない涼太も涼太である。

―ピンポン。具材を炒めている最中、インターホンが響き渡った。


「誰だろ…ねえ涼太、出てきて」
「えー…ならなまえも一緒に行くっス」
「いや、わたしこれ炒めてるんだけど」
「じゃあオレも離れないー」
「えええ…」


まったく、言動も行動も子どもだ。いつまでも出ないと相手にも迷惑をかけてしまうため、わたしは背中に引っ付いたままの涼太を連れ、玄関を開けた。するとそこに居たのは、鮮やかな水色と赤色と緑色だった。つまるところ、黒子くんと赤司くんと緑間くんである。まるでかたつむりの殻のようにわたしに引っ付く涼太を見て、ぽかんとした表情をする三人。涼太も涼太で、意外な人物の来訪に驚いたようだ。


「え、なんで来たんスか」
「…え。ああ、いえ…僕はただ、作ったものが残ってしまったのでお裾分けに」
「僕も似たようなものだよ」
「オレも二人と同じような理由なのだよ」
「だからって理由で来たんスか!もー、いくら家が隣接してるからってこんな頻繁に」
「はあ…でもなまえさんは喜んでくれるので。すみません、これ食べてください」
「ありがとう黒子くん!本当助かる!」
「涼太の世話も大変だろう。これを涼太と食べてくれ」
「赤司くんこれって某老舗甘味処の水ようかん…!?」
「ああ、家内がこの前にね」
「ふおお…!」
「オレからはこれをやるのだよ」
「緑間くんはおしるこ!ありがとう、わたしおしるこ大好物」
「それならよかったのだよ」


三人とも、おそらく奥さんからわたしたちの家にお裾分けをしてこいと言われたのだろう。歩いて1分もかからない距離に住んでいる三人からは、時々こうしてお裾分けをしてもらっているのだ。本当にありがたい。


「じゃあ、そろそろ行くよ。がんばれ、なまえ」
「三人ともありがとう!が、がんばります」


ふわりとひとつ微笑んで、三人はわたしたちの家をあとにする。ああ、また涼太は拗ねちゃったかなぁ。いっつも拗ねるんだから。


「涼太?」
「…なんスか」
「…夕飯食べたあとならいつまでも抱きついてていいから、機嫌直して?」
「!ほんと?」
「ほんと。それでいい?」
「全然オッケーっス!」


今日もわたしの旦那様はかわいいです。