◯◯系男子シリーズ | ナノ

すり寄っていたい系男子
赤司征十郎×赤司なまえ


「征ちゃん?」
「なんだい?」
「どうしたの?珍しいね」
「べつにどうもしてないよ。ただ、なんとなく…」
「なんとなく?」
「…なまえに甘えたくなった」


ぶふぉ。征ちゃんの爆弾発言に、わたしは心臓をハートの矢で突かれた。征ちゃんがこうしてわたしに寄りかかってくることとか、甘えてきてくれることはとても珍しい。いつもわたしが甘やかされる側なのだ。

わたしの肩に頭を預けて、甘えるようにすり寄ってくる征ちゃん。よしよし、とさらさらの赤い髪を撫でてみれば、なんと気持ちよさそうに目を細めるではないか。こんなことを彼と親しくない人がやってのけてみれば、まず自分の身が危険になるだろう。だから、これはわたしだけの特権。


「そういえば昨日、なんだっけ…希望の世代だったっけ?その人達と会ってきたんでしょ?」
「ああ、キセキの世代のことかい?」
「あ、そう。キセキの世代!どうだった?楽しかった?」
「楽しかった…のかな。久しぶりに会ったことには変わりないが、全員雰囲気がまるで別人のようだった」
「…そっか。みなさん元気だった?」
「あぁ、元気すぎて心配はいらないくらいだったよ。それに、既婚者が増えていた」
「え!だれ?」
「真太郎。ひとつ上の女性らしい」


むぎゅむぎゅ、繋いでいる手を握ったり離したり、感触を楽しみながら征ちゃんは話す。そうか、緑間くんが今度はゴールインしたんだ。たまに名前を忘れることはあれど、わたしは征ちゃんの…ええと、つ、妻であるため、全員と多少の面識はある。キセキの中では、征ちゃんが一番早い結婚だったらしい。そのあとに征ちゃんからキセキのみんなにわたしを紹介してもらい、面識を持つことができた。

わたしと征ちゃんの結婚後には黄瀬くんが同級生とゴールインしたし、黒子くんが桃井さんという女の人とゴールイン。そして今回が緑間くん。征ちゃんのことは高校と大学、そして今の彼しか知らないけれど、キセキのみんなにとっては、彼が恋愛という領域に足を踏み入れたこと自体が衝撃だったらしい。中学の頃は、そんなにバスケ一筋の人だったのかなぁ。

話すのをやめて、しばらくお互い沈黙が続く。沈黙というのは気まずい雰囲気が流れるというけれど、征ちゃんとの沈黙はなんだか安心できる。ふいに、わたしに寄りかかっていても肩の位置は高い征ちゃんを見上げてみた。すると、眠いのかまぶたが閉じかかっている征ちゃんの姿が。かくん、かくんと頭が不安定である。


「征ちゃん、眠い?」
「…ん、」
「寝てもいいよ。疲れてるんだね」
「…枕、」
「え?まくら?」
「…ひざまくら、」


膝枕。征ちゃんが昼間に寝るという時は大抵わたしの膝だから、少しだけ微笑みがこぼれた。いいよ、と了承して膝に誘導してあげれば、こてんと膝に征ちゃんの頭が乗る。心地好い重さに安心感が生まれた。


「…すこし、ねる」
「うん。…おやすみ、征ちゃん」
「…おやすみ」


ゆっくり、大きめの瞳が閉じられる。それからすぐに聞こえてきた小さな寝息に、わたしは一人、ちいさく微笑む。さらさらの赤い髪に、するすると指を通してみる。絡まることなくすり抜けていく真っ赤な髪。

高校でも大学でも、そのあまりの“完璧”さから一目置かれていた征ちゃん。自分の信じられない人には決して自分の内側を見せることはなかったし、気を許すこともなかった。そんな赤司征十郎が、わたしの前ではこんなに無防備になる。少しだけ童顔な征ちゃんのかわいらしい寝顔を見られるのは、今にも先にもわたしだけだと信じたい。こんなに大切で愛しくて仕方のない人なんて、きっと征ちゃん以外にいないから。