glory(栄光) | ナノ

「やっぱり、マジバのシェイクは美味しいですね」
「おまえの場合、それしか飲んでるとこ見たことねーぞ」


放課後の部活も終わり、わたしと大我くん、そしてテツヤくんは、マジバで談笑していた。あのあと結局わたしは大我くんにハンバーガーを奢ることになり、大我くんの分10個、テツヤくんへはバニラシェイク1個を捧げてあげた。テツヤくんはいいとして、大我くん食べ過ぎ。少しは遠慮してほしいものである。


「つーか凪紗、先輩たちにすげえ可愛がられてるよな」
「確かにそうですね。木吉先輩なんてこの前、妹にしてやりたいと呟いてましたよ」
「ふっふー、まあね!先輩たちに認めてもらえるよう、すごく頑張ったもん。特に伊月先輩ね!」
「本当伊月先輩好きだな、おまえ。確かにかっこいいけどさ、ぶっちゃけダジャレがすげー寒いじゃねーか」
「僕もあのセンスのなさには感動すら覚えました」
「えー?すごくかっこいいじゃない、伊月先輩。優しいしバスケ上手いし、なんちゃらの目っていう特技持ってるし。もう本当伊月先輩大好き」
「鷲の目、ですか。確か、僕の中学の時のバスケ仲間の一人が進学した先の高校に、それと似たような能力を持つ人がいるらしいですよ」


ずず、とバニラシェイクを飲みながらテツヤくんが言った。大我くんも、もさもさとハンバーガーを食べながら話を聞いている。ということはつまり、能力が被るということだ。そんなのわたしは認めない!


「なにそれ!伊月先輩と同じような能力を持つとか、キャラが被る!わたしは伊月先輩しか認めない!」
「あ、いやあの、そういう問題…なんですか?」
「そうだよテツヤくん。キャラが被るということはつまり、片方の影が薄くなるという欠点があるのよ。伊月先輩の存在が影に消えていくなんて嫌だもん」
「なかなかに意味のわからないこと言ってるな」
「ひどい!なら例えばの話、その人がその能力を持ってることで伊月先輩よりも有名になったとするね。そうすると、試合とかで伊月先輩が出て同じ能力を持ってても、あれ?あいつの名前なんだっけ?つーか誰?ってなるかもしれないんだよ?そんなの耐えられる?わたしの大好きな伊月先輩が!」
「よくわかりませんけど…なんとなく嫌です」


「?」を顔に浮かべながら、話に乗ってくれたテツヤくん。しかし、大我くんは訳がわからないといった顔をしたまま硬直している。テツヤくんが耳打ちをして簡単に要点を説明してあげたところでようやく理解できたらしく、リスのようにぱんぱんに張っていた頬が元に戻った。


「んなの絶対ぇお断りだ!」
「え、テツヤくんなんて説明したの?」
「内緒です」


テツヤくんは柔らかく微笑んで、きれいで細長い人差し指をくちびるに添えた。その姿がいつもの彼とはかけ離れて妖艶に見え、わたしは静かにこくりと息をのんだ。


「よし、そろそろ出るか」
「そうですね。凪紗ちゃん、ごちそうさまでした」
「どういたしまして!テツヤくんにならいつでもあげるから、遠慮なく言ってね」
「俺の時とはえらい態度違うな」
「大我くんは親友だからね」
「いや親友だからこそだろ」
「親友だからこそお金のトラブルは起こしたくないんだよ」
「…よくわかんねーけどわかった」
「結局どっちなんですか」


ぷは、と大我くんが吹き出した。なんかくだらねーけど笑えんな、と苦笑しているのを見て、わたしもつられて笑顔になる。わたし、みんなと出会えて本当によかったなぁ。



20130122