tennis | ナノ
「あ、ブンちゃんおはよう」
「おっ名前、おはよ」
今日は夏休み明け、初めての学校。
久々にみんなに会えると思うと、朝から楽しみで仕方なかった。
そして学校へ着いたと同時、玄関での夏休み明けの再会第一人者が、目の前で呑気にガムを噛んでるこいつ、丸井ブン太。
しかしほんとに久々すぎて、こんな顔してたっけ、と少し首を傾げる。
わたしの勘違いだったら申し訳ないけど、…なんか顔が丸くなった?
苗字にちなんじゃった?あ、これ失礼だよね、ごめんブンちゃん。
「おー、ふたりとも来るのが早いのう」
「あれ、本当だね。おはよう、ふたりとも」
後ろから声がしたから振り向くと、そこには仁王くんと幸村くんが立っていた。
「あ、そっちこそおはよう」
「あ、うん。聞くけどふたりって一緒に来たの?もしかして」
そう聞いた幸村くんは、目は笑っているけど口は笑っていない。
なんだか背筋がゾッとした。
「ううん、たまたまばったり会っただけ」
「ふうん、そっか。ならいいけど…」
何がいいんだろう。
幸村くんの言葉はいつも意図が読み取りづらい。
すると急に、仁王くんがびっくり発言をしてきた。
「…お前さん、ほんまに丸井か?」
「は?」
これにはわたしもブンちゃんも、さらにはあの幸村くんもびっくり。
ブンちゃんはあんぐりと口を開いて、仁王くんを見る。
「いや…、何か違うと思ってのう」
「何だよぃ、俺は何も変わってないぜ?」
うーん、と仁王くんは綺麗な白い手を顎に当て、考えるそぶりを見せた。
でもわかるよ仁王くん、今日のブンちゃんは何処か違う。
「あ」
「え?」
何か思い付いたのか、はたまた何が違うのかわかったのか、仁王くんは口を開いた。
「丸井、もしかしてお前さん、…太っ…いや、育ったか?」
「…」
仁王くんの問い掛けに、ブンちゃんは顔を険しくした。
「仁王、それは失れ…っくく、失礼だと思うよ」
いや幸村くん、あなたも失礼だよ。
ブンちゃんは俯いてしまった。
「…やっぱ、わかるモンなのかよぃ」
「え」
「いやさ、仁王の言う通り、この夏休みでかなり体重いったんだよ」
そうブンちゃんが言った直後、仁王くんが吹き出した。
「っくく、それもそうじゃろうな。俺ん家に転がり込んで四六時中食ってばっかいれば」
「な!四六時中じゃねえだろぃ!」
「俺にとっちゃ四六時中にしか見えんかったぜよ」
「俺がそんな食べるとでも言いたいのかよ!」
「…え、違うのかい?」
未だに笑いを抑えきれない幸村くんが話に入り、さらにややこしくなってしまう。
失礼かもしれないけど、わたしもブンちゃんは四六時中食べてるようにしか見えないよ、うん。
「…、違うくは、ねえけど」
「じゃろ?ちなみに体重はいくつなんじゃ」
「言う訳ねえだろぃ」
「なんじゃ、つまらんのー。言えばダイエットに協力してやらんこともなか」
「え、マジか!逆に増やすようなことしそうで恐いけどマジか」
「大マジ」
ブンちゃんは考え込むように眉をしかめ、諦めたように口を開いた。
「…68キロ」
「…落とすのが大変そうじゃのー」
「っ、そう言う仁王はいいよな、細いしモテるし背が高いし!」
「まあ、俺はそんなに食べないしのう」
「あー、なんかむかつく」
「仕方なか。名前も協力してくれるじゃろ?」
え、と一瞬思ったけれど、正直ブンちゃんが好きなわたしにとっては嬉しいお誘いだった。
すぐに一言返事をすれば、幸村くんも協力してくれるということで。
「早速今日から始めるかのう」
面白そうに呟いた仁王くんの言葉に、わたしもブンちゃんのために頑張ろう、そう思ったのだった。
(お、体重元に戻ってる)
(え、ほんとに?)
(おう、ほらこれ)
(ほんとだ)
(お前と幸村くん、…あんま役に立ってない気がするけど仁王のおかげだな、サンキュ)
(どういたしまして。よかったね、ブンちゃん!)
▽実は仁王がブンちゃんダイエットのために1番頑張ってましたというオチです。
密かに1番頑張る仁王であって欲しい。
20111112