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「ねえ、雅治ってば!ちょっとなんでそんなに怒ってるの」
「…怒ってなんかないぜよ」
「いーや怒ってるね。何年わたしが彼女してると思ってんのあんた。不機嫌ですーって顔に書いてあるよ」
「えっ」


ある寒い日のこと。わたしは雅治と放課後に一緒に帰る約束をしていた。しかし部活から帰ってきたこの白…じゃなくて銀髪の彼氏は、すこぶる不機嫌な顔をしていたのだ。そして、何も言わずにわたしの腕を引っ張って歩き出す雅治。ところがどっこい、わたしは知っている。この不機嫌の理由は100%嫉妬なんだ。そしてその不機嫌という仮面が取れた時、誰にも見せられないような姿の甘えた雅治くんになるのもいつものパターン。そんな雅治が可愛くて仕方ないのだ。


「…や、俺は怒ってない。断じて怒ってない。神様に賭けてもええよ」
「うっわ雅治が神様とか…信じてたんだ」
「…聞かなかったことにしてくれんかのー」
「い・や。…で?どうしてそんな怒ってるのよ」


そして、雅治の話をたぶらかすのも得意になった。本心をつついていけば、案外あっさりとその不機嫌の理由を口にするんだ、この子は。高校にもなってこの子って何だって話だね。すいません。


「…ブンちゃんが、」
「は?ああ、デブン太がどうしたって?」
「…名前のこと可愛ええって言っとった」
「…へえ、」
「…名前は俺のなのに、他の男の口からお前さんの話が出ると、…遠く感じるんじゃ」
「…まさ、」
「…すまん、重いな」
「や、…そこまで雅治がわたしのこと想ってくれてるなんて思わなかっただけ。…雅治、すきだよ」


その整った顔を悲しそうに歪める雅治に、わたしはとてもいたたまれなくなり、華奢だけれどがっしりとしたその広い胸に抱き着いた。ふんわりと雅治特有の安心できる匂いが、わたしの鼻孔をくすぐる。今日は香水つけてないのかな。そんなことを思いながら胸に顔を埋めると、雅治はこれでもかと言わんばかりにぎゅうっと抱きしめ返してきた。


「もっと場所考えてくれん?ここ公の道路じゃろ」
「そんなこと言いながらも雅治だって抱きしめてくれてるじゃない」
「…ごもっとも」


ふ、と綺麗に笑うわたしの自慢の彼氏。首元に顔を埋めてきたことから、これは甘えたい合図だと悟った。よし、今日は嫌になるくらい甘えさせてあげようかな。わたし達の横を通り過ぎて行く学生や地域の人の視線が痛いけれど、わたしは胸いっぱいの幸せを感じていた。
20120130