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「…蔵ノ介」



後ろから不意に名前を呼ばれて振り向いてみれば、そこには目に涙を溜めて佇む幼なじみの姿。
またフラれたんか、そう思って俺は苦笑しながら両腕を少し開いた。


すると一瞬にして泣き顔になって俺に抱き着いてくる名前。
名前はフラれる度に俺んとこに来ては、こうして温もりを求めるんや。


本気になる寸前に必ずフラれる名前。
ええ加減自分でも繰り返さんよう気いつけてほしいのが俺の願い。


けどそんなこと言うても俺は名前が好きやから、こうして温もりを求めに来てくれるんが、ごっつ嬉しいんや。



「よしよし、またフラれてもうたんか?」

「…うん。要らない、ってひとことで切り捨てられちゃった」

「…そか」

「そう。でもその前に身体求められてさ、何か嫌だったから拒否しちゃったの。そうしたら“要らない”だよ?結局は身体目当てってやつだったんだよ。男なんて、みんなそう」



そしてそのフラれる理由っちゅーやつが、“ヤらせてくれなかったから”って言う何とも幼稚な理由。
ほんま、女を何だと思ってるんやろか。


少なくとも俺は、そういう風に傷つけるようなことだけは絶対せえへん。
やって、傷つくとこは見たくないやん。



「…でもね、蔵ノ介」

「…ん?」

「わたし、今回別れたあいつのこと、本気で好きになるところだった」

「…おん」

「別れないようにするには、やっぱり身体あげてればよかったのかな…」

「…あかん」

「…蔵ノ介、」

「よう考えてみ。自分がそう思てそいつとヤったとする。で、最悪自分が妊娠でもしたらどないするん?俺でもさすがにそうなったら助けられへんのやで?」



俺の腕ん中で鼻を啜る名前が、ゆっくり顔を上げた。
辛いんはわかるけど、これ言うたのは全部自分のためなんや。
何も言わずに見つめてくる名前を、俺も無言で見つめ返す。



「じゃあ、蔵ノ介ならいいの?」



え、と俺は目を見開いた。
何言うてるんや、こいつ。
「は?」て聞き返せば、また同じ質問を問われた。



「蔵ノ介ならいいの?」

「…自分、言うてる意味がわからへんのやけど」

「だから…、蔵ノ介とヤってさ、蔵ノ介の子供妊娠するならいいのかって聞いてるの」



俺の全思考が止まった。
なしてそういう風に考えるんやろ。
俺やって駄目なもんは駄目に決まっとるやろ?
第一、たかだか高校三年で生活できていけるほどになれる訳ないやん。



「いや、駄目やろ」

「どうして?」

「…どうして、って…。…普通に無理やろ」

「…蔵ノ介」

「…ん?」

「わたし、蔵ノ介が好き。だからきっと、今までずっと続かなかったんだ。初めては全部蔵ノ介が良いって想いがあったから、拒否反応が出ちゃったんだと思う」



どき、と心臓が脈を打った。
この流れで告るか普通。
けど泣いたあとのせいか名前が妙に色っぽくて、名前をきつく抱きしめた。



「馬鹿やな」

「馬鹿だよ」

「もっと早く言うとけば、こないに傷つくこともなかったんやで」

「…うん」

「…まあ、待っとった俺も俺やけど。好きやで、名前」

「うん、」

「高校卒業したらもらってやってもええで?」

「…上から目線、嫌い」

「…是非一緒にならせてや」

「うん」



なあ名前。
俺は絶対に、自分を傷つけたりなんかせえへん。
何かあった時は全部、俺が責任取ったる。
あんまでっかいことは言えへんけど、ずっと傍に居って欲しいんや。


幼なじみとしてやなくて、今度からは“恋人”としてな?
20111214