tennis | ナノ
「うわ、すごい人混み…」
放課後、部活がオフである彼氏の雅治と手を繋ぎながら、わたしたちはいわゆる放課後デートをしに都心に出てきた。
けれど暑いのが苦手、人混みが嫌いな雅治はあまり乗り気になってはくれなくて、わたしが嫌がる雅治を引っ連れてきたのだ。
雅治はあまり汗をかかないから涼しい顔をしているけれど、わたしは暑くてたまらない。
繋いでいる手なんか、手汗でべとべと。
暑いから離したいけれど、雅治と手を繋いでいたい。
だから手汗がひどくても、わたしは手を離すことはしなかった。
「…名前、暑いぜよー…」
「暑いねー…。どこ行こうか」
「とりあえず涼めるとこ」
「うー…じゃあ、そこらへんのデパートで良いよね」
「んー」
だるそうにポケットに手を突っ込みながら、わたしにおとなしくついて来る雅治。
立ち止まって隣に並ぶと、後ろで結んである襟足が、ぴょこんと揺れた。
「?何かついとる?」
「いやー…やっぱりかっこいいなあと思って」
「ふっ」
照れたのか、そっぽを向いて鼻で笑う雅治。
あの、耳真っ赤なんだけど。
いつもクールで澄ましている雅治の、可愛い一面。
手を離して腕に絡み付くと、暑いと言いながらもどこか嬉しそうな顔で。
わたしたちはそのまま、目前にあるデパートに入った。
「…天国…」
「涼しいのう」
「あー、本当天国だね」
暑さが突き刺さっていた肌に、今度は程よい涼しさが突き刺さる。
横をちらっと見れば、わたしより背の高い雅治。
襟足が歩く度にぴょこぴょこ揺れて、ひよこみたいで可愛い。
でもその綺麗な銀髪が揺れるのが、すごく綺麗。
「あ、ねえ雅治」
「ん?」
「プリクラ、撮ろうよ」
「…いやじゃ」
「なんでよー?」
「嫌と言ったら嫌なんじゃ」
「雅治…」
「…、」
そして雅治は、プリクラというものが大嫌いらしい。
一回だけ、またもや嫌がる雅治を強引に引き連れて撮ったことがある。
カメラに目線は合っていなかったけれど、どれも全部すごくかっこよくて。
雅治は自覚していないだろうけど、プリクラ機から出た後、女の子の視線がすごかったんだよ。
そしてちなみに、撮ったものをアルバムに載せておいた。
でも今回は渋々といった形だけど了解してくれて。
腕を離して手を繋ぐと、わたしたちは二階に向かう。
「うわ、見てあの銀髪の人!めっちゃかっこよくない?」
「やばっ、本当だ!背高いし細ー。いいなあ、あたしもあんな彼氏がほしいよ」
エスカレーターですれ違う度、雅治のことを見てはかっこいいと必ず言う女子高生たち。
確かに雅治は本当にかっこいい。
そんな彼氏を持つわたしは幸せ者だけど、果たしてわたしが雅治に釣り合っているのかどうか、という所が問題で。
わたしが俯くと、雅治が心配そうに顔を覗き込んできた。
「…なした?」
「ううん、…なんでもない」
ふい、と雅治から顔を逸らす。
そんな綺麗な顔、間近で見るとか心臓に悪い。
肩を並べて歩きながら、わたしたちは目的の機械の前へとたどり着く。
「これでいい?」
「…よくわからんき、何でもええ」
「じゃあ、これで決定ね」
眉を潜めた雅治の手を引くと、渋々ついて来る雅治。
200円ずつお金を入れて、わたしはモードを選び始めた。
「あ、これ可愛い!」
「んー」
「ちょっと、そんなに怠そうな顔しないでよ」
「…苦手なもんは仕方ないじゃろー」
雅治が苦笑しながらこつん、とおでこを合わせてくる。
何だかそれがすごく恥ずかしくて、わたしは顔を逸らす。
「いつもは強気なくせに、俺とふたりだと恥ずかしがり屋になるとこ、」
「え?」
「誰より好いとうよ」
「、!」
にや、と意地悪気に笑う雅治。
やばい、すごく恥ずかしい。
というか、緊張しすぎてプリクラどころじゃない。
心臓がばくばくなわたしに対し雅治は余裕なようで、ぐいっとわたしの腰を自分の方に引き寄せた。
「え、?」
「ほれ、カメラ見んしゃい」
「あ、うん…っ!?」
わたしがカメラの方を見ようとあたふたしている時に、雅治の綺麗な顔が近付いて、機械の中に小さなリップ音が響いた。
その瞬間に鳴る、シャッター音。
えっ、と思った瞬間には既に遅くて、さらに引っ付いてきた雅治からのキスに酔いしれた。
「っ、」
「ん、」
ようやく離れたと思ったら既に全部撮り終わっていたようで。
羞恥に顔が熱くなった。
「な、…に、してくれたの」
「面白そうじゃったからのー」
「雅治のばか!変態!」
「その馬鹿で変態呼ばわりされる俺を好きんなったんは、どこのどいつなんじゃろー?」
「…っ、わたし…」
心底楽しそうに笑いながら、大きな手でわたしの頭を撫でてくれる。
結局のところわたしは、雅治に弱いんだな。
恥ずかしさで赤い顔を隠すかのように、わたしはまた雅治に抱き着いた。
20111211