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わたしの家には毛全体が綺麗な銀色をしている猫がいます。
名前は『はる』くん。
わたしの彼氏も銀色の綺麗な髪をしていることから、ふたりで名付けました。
はるくんはとってもマイペースで、機嫌がいいのか悪いのか、そういったことが全く掴めないのです。



「はるくん、おいで」

『にゃ』



でもわたしがはるくんに向かって手を伸ばすと、甘えるように擦り寄って来ます。
なんだか雅治くんに似てる…あ、雅治くんっていうのは彼氏の名前です。


ピンポーン



「あ、雅治くん来た!ほら、はるくん」



雅治くんが来たのを知らせるチャイムが鳴った瞬間、はるくんは身を強張らせました。
不思議に思いながらも雅治くんを迎えに行き、部屋に入った瞬間でした。



「ほー、俺が来るのが嫌みたいじゃのう」

「…え、どうして?」

「ほれ、見てみんしゃい。今にも飛び掛かって来そうな目で俺を見とるじゃろ」

「え?」



雅治くんに言われてはるくんを見てみるけれど、普段と変わらぬ様子でわたしを見上げるはるくん。



「いつもと変わらないよ」

「…ムカつくのう、この猫」

「えっ、ちょ、雅治くん!」



雅治くんがはるくんに近付き、はるくんを持ち上げました。
身長がある雅治くんに持ち上げられたはるくんは、ものすごく威嚇した目で雅治くんを見つめています。



「…この猫、俺に似とる」

「うん、甘えたなとことか、」

「いや、違う。目が、似とるんじゃよ」

「目?」

「そう、この目―…っ、」

「あっ」



そう続けて雅治くんが言おうとした時、はるくんは雅治くんの手を噛んだのです。
その拍子に雅治くんの手から、逃げるようにして離れていきました。



「だ、大丈夫!?えっと、絆創膏…」

「や、大丈夫じゃよ。血も出とらんし」

「でも…!」

「気にせんでよか。そいつも機嫌がよくないみたいじゃな」



はるくんの逃げ出した方を見て、雅治くんは苦笑しました。



「そろそろ帰るけえ、猫の相手、してやりんしゃい」

「ご、ごめんね…」



雅治くんはまた少し微笑むと、わたしの頭を撫でて部屋を出ていきます。


…全く、はるくんは本当に雅治くんにそっくりだ。


わたしがブンちゃんや幸村くんと話していただけで機嫌が悪くなったり
急に甘えたになったり
ふらふらとどこかへ消えていってしまったり。


わたしは苦笑しながら、はるくんの逃げていった方向へ向かうのでした。

20111110