tennis | ナノ
「清純ー!あんた、ちょっと待ちなさいよ!」
「ちょっ、待って待って!名前足早すぎ!」
「当たり前でしょ、陸上部ナメるんじゃないわよ!ほら、おとなしく立ち止まる!」
「やだね!このいちごみるくは俺のだもん!」
「わたしのを勝手に盗んでおいてよく言えるよね!そのいちごみるく、わたしのだから!」
山吹中3年テニス部部長千石清純、ただいま絶賛追いかけっこ中。
事の発端はこの、俺の手にあるいちごみるく。
名前が買ってきたいちごみるく。
女の子は全員大好きだけど、俺にとっては名前だけが特別。
だから、いたずらしてやりたくなって、名前が居なくなった隙にいちごみるくを取って教室から逃げ出したんだ。
好きな子にはいたずらしたくなるって、こういうこと。
名前はいちごみるくが大好物だから、俺に取られたいちごみるくを取り返そうと、俺を追ってきた。
それで、今現在の追いかけっこ状態に至るって訳。
でも名前は現役の陸上部ってこともあって、足が早い!
だけど俺だって3年間、テニス部で鍛えてきた脚力は伊達じゃない。
いやでも、これ絶対そのうち追い付かれる。
そう思った俺は走路を変えて、屋上へ向かい始めた。
「え、屋上?清純、あんた馬鹿?逃げ道のなくなる屋上にわざわざ行くなんて!」
後ろから俺を馬鹿にする名前の声が聞こえるけど、逃げ道なんて正直どうでもいい。
逃げないほうが効率的なんだけど、さすがに廊下はね。
だから屋上に走路を変えたんだ。
「はあ、やっと追い付いた。清純、わたしのいちごみるく返してよ!」
陸上部のくせに息を切らして俺に近付いてくる名前。
残念、そんな簡単に返さないから。
「何言ってるの、返さないよ」
「何でよ!あんた何がしたいの、」
「名前が俺のこと好きって言ってくれたら、返してあげてもいいかなー?なんてね」
いつもみたいにおどけた感じで名前に言った。
さあ俺、今日はいつも以上のラッキーが起きるのかな?
「な…に、それ」
「えー?何って、だから俺のこと」
「…こんなことで言うなんて思ってもなかったけど、」
「え?」
冗談として受け取るんだろうと思っていた名前が、何やら本気で悩み始めた。
…え、まじ?ラッキー起こっちゃう?
「わたし…、清純が好きだよ」
ぽと、いちごみるくが俺の手をすり抜けて下へ落っこちる。
あの名前が、俺を好きだって?
何これ、一生分のラッキー使い果たした気がする。
「…ちょっと、何か言ってよ」
「え?あ、ああ…何、ほんと?」
「…誰がこんなこと冗談で言うのよ」
「…名前!」
うわ、嬉しすぎる!
俺は手を広げて思いっきり名前に抱き着いた。
「きゃっ、ちょっと何するの!」
「俺も名前が好き!大好き!」
「は、恥ずかしいから!」
小さないちごみるくから始まった、俺達の恋。やっぱり、好きな子にはいたずらしてみるものだね!
やっぱり俺ってラッキー!
20111126