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「あんたらが誰かは知らねえけどさ、そろそろ睨み合うだけってのも終わりにしようぜ」 静寂を破る京の言葉に息を飲む、鋭い反応が伝わってきた。相手は京を知っているらしい。正体を誰何するより先に聞き覚えのある男の声で返事が届く。 「確かに建設的ではないな」 今度は京が息を飲む番だった。 薄々と察してはいた。 ゲームをゲームとして成立させる為には、バランスが最も重要な要素になる。たとえ参加者の中で首輪をはめられたのが京だけだとしても、他の参加者たちが実践慣れしていない生半可な面子では京が圧倒的に有利であることに揺るぎはなかった。日常とは遠くかけ離れた死に近い境遇に放り込まれようと、最も強い者と手を組みさえすればいいのだから、爆破による脅しもその効果はかなり薄められてしまう。 ならば、京を駒の一つに選出したことで高く上げられたハードルを引き下げるにはどうしたらいいのか。 簡単なことだ。 京と遜色ない参加者だけで固めてしまえばいい。都合が良いことに、極めて高い能力を持つ人間が何人もいることを世界は知っているのだ。 予想していようが、しかし“主催者”の悪意が一つ一つ浮き彫りとなるのは気分が悪い。軽く舌打ちした京は近寄ってくる三つの足音を受けて通路を飛び出す。 大柄な身体の隅々まで機械に委ねた男と軍服をまとった少女、そして2人から少し離れた場所に京と同じ力を持つ青年がけだるそうに立っていた。 「まさかあんたらにこんなとこで会うとはな」 街中で世間話でもするかのような明るい口調で話しかけつつも、京は微塵も笑ってなどいない眼でマキシマたちの思惑を図るようにその出で立ちを観察するのを忘れなかった。3人ともが同じ首輪をつけている。自分からは未だ見えなかったが、京の首にあるものもそうなのだろう。その証拠にマキシマたちの視線は、まっ先に京の首元に向けられていた。 「これも、あんたらがいたネスツって組織の差し金なのか?」 「……違うわ」 可能性の一つを潰す為の質問に、ウィップが静かに首を振って否定した。もっとも、もう組織とは関係ない自分たちが知らないだけかもしれないけれど、と完全には否定しきれない言葉を付け足す。 京にしても、あっさりと黒幕の正体が見えることを期待していたわけではない。だから落胆こそしなかったが、心の奥底の感情は絶えず渦巻いたままだった。とは言え、ネスツが裏で糸を引いているか否かの真偽はともかく、彼らがウィップの言葉以上のものを知らないこともれっきとした事実なのだろう。知らないのはお互い様であり、八つ当たりもできない。 「誰が、よりもとりあえず現状打破といきたいんだが」 膠着状態に陥りかねない状況からの脱出を計るべくマキシマが口を開いた。仏頂面でそっぽを向くK’に一瞥をくわえ、予想外の言葉を紡ぐ。 「俺たちは……首輪を外す条件を知っている」 京の目が驚きで見開かれた。 解除条件は喉から手が出るほど知りたいことだ。自分のPDAが何であるのかの情報だけでは意味がないのだから、それに関しては願ってもない話である。 だが喰えないこの男のことだ。ましてやこんな状況とあればタダというわけにはいくまい。 「見返りは何だ?」 一気に険を含む京の声に、マキシマはおどけるようにその大きな肩をすくめてみせた。 「別に難しいことじゃないさ。一つだけ条件を飲んでもらって、こっちにデメリットがないようなら教えてもいい」 「条件?」 「あんたの持っているPDAのナンバーを教えること、それが条件だ。こっちもまあ、無駄死には避けたくて必死なんでね。できれば危険なナンバーの持ち主には自滅してほしいのさ」 「危険なナンバー?」 妙な表現をする。 ひっかかりは覚えたがどうせ、京にはPDAの危険性など判断のしようがない。取り出したPDAの液晶を灯し、画面に映る図柄に変化がないことを確認しながら読み上げた。 「……4だ。スペードのな」 果てして吉と出るか凶と出るか。マキシマは神妙な面持ちをして、裁きの審判を待つような心境の京に右手を差し出す。 「念の為に確認させてほしいが、構わないか?」 「いいぜ。だが壊すのだけはやめてくれよ」 「そんな意味のないことはしないさ」 受け取った京のPDAを子細にチェックした後、それを返しながらマキシマは頷いた。 「OK。どうやら共闘が成立しそうだ」 | |
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